エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
「あの、とてもありがたいお話です。梧桐さんのお力を貸していただけるなら心強いです。でも、急にそんな……」

慧さんはそれでいいのか。
ビジネスとして、警護依頼をするだけでも……。

「今日だって友達との約束をキャンセルしているし、一カ月後には大学が始まるのに、通学が怖くて休学しとようとまで悩んでいたじゃないか」

ストーカーから送られてきた手紙とチケットをペラリと見せられ、凍り付く。
捨てたはずだが、お父さんが拾ったらしい。

途端に血の気がひく。見たくもない。
さっと顔を逸らした。

「ーーーー詩乃、悪かった。父さんの責任だ。インタビューなど受けなければ良かった。まさか詩乃がこんなことになるなんて思わなかったんだ」

お父さんはずっと自分を責めていた。インタビューなど、受けれなければ良かったのだと。

「お父さんのせいじゃないよ」

早く普通に生活ができるところを見せて、安心させてあげたい。大丈夫だよって言いたいのに心配ばかりかけている。

「そうだぞ。犯罪者の行為が自分のせいだなんて思っちゃだめだ。
記事は素晴らしい内容だった。天笠は悪くない。そんなふうに責任を感じることはない。

わたしとしては嬉しいかぎりなんだ。慧は女っ気がなくて心配していたからね。
親バカながら、なかなかの色男だと思っているんだが、仕事一筋すぎて頑固な一面があってね。
聞けば付き合っている相手もいないと言うし、であれば、これが運命的なタイミングなのではないと。詩乃さんは美しいし礼儀正しいし、俺は大歓迎だ」

梧桐のおじさんは大仰に話した。
どんどん断り辛くなる。

「ま、まだ学生なんです。卒業したら働くつもりだし……」

「大学もあと一年じゃないか。しばらくは婚約者ということで、卒業したら正式に籍をいれるといい。それとも、彼じゃ不満かい? こんなにいい男はなかなかいないと思うけどね」

お父さんの中では決定事項のようだ。

「慧さんは素敵な方です。だからこそ、こんな子供ではご迷惑でしょう。慧さんのお気持ちだって……」

再度、慧さんに助けを求める。
黙っていないで、なんとか言って欲しい。
気持ちはありがたいが、とにかく急すぎる。
心に決めて人がいるとか、適当に言ってこの話をなかったことにしてほしい。
縋る目を向けるが、慧さんは無表情に告げた。

「問題ないです。そういうことらしいので、これからどうぞよろしく」

「なんで?!」

慌てふためいているのはわたしだけか。
思わず声を大きくした。

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