エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
「ちがうの……?」

「確かに、そう思っていた時期はあったよ。俺も若くて尖ってた時期があったってことさ。危険と隣り合わせ。緊急時には家族の元へ駆けつけることもできない。何かあったときに、大切な人を守れないのが嫌だった。
でもそれは、本気で愛する人がいなかった俺の屁理屈だったんだよ。
詩乃に会ってからは違う。君を好きだと感じて、どうしようもなく欲しいと思っていた」

「うそ……」

「嘘なもんか。詩乃に好かれたくて必死だっただろ」

甘やかしすぎだったのは、それが理由だったってこと?

「初めて会った時に都合がいいって言ってたもん!」

「詩乃は最初俺を好きではなかっただろ? 俺は詩乃に会う前からどうにかして関係を持てないかと謀をめぐらせていたんだ」

都合がいいって、そういう意味だったの? ぽかんと口があく。

「他の男を寄せ付けず、君をつなぎとめるには一年間の婚約者という立場はうってつけだと思ったよ。その間にどうにかして落としてやろうと思っていたんだ。
顔合わせはすごく緊張していたけれど、内心、勢いで婚約までこぎつけた父親たちにバンザイしていたね」

あいた口がふさがらない。
びっくりしすぎて。
どれもこれも初耳だ。

「そんなこと考えていたなら言ってよぉ」

「詩乃が俺に心を寄せてくれるまでは言えないと思っていたんだ。男が怖くなかった?」

怖かった。誰も信じられなかった。
――――けれど。

「そういえば、慧さんだけは始めから怖いって感じたことなかったよ。信じられた」

ぽろりと落ちた雫を慧さんの指が掬った。

「それは嬉しいな」

「あ、でも第一印象は怖かったよ。目つき悪かったもん。緊張してたんだね」

「ーーーーこいつめ。さっきまで泣いていたくせに。言うじゃないか」

付け足すと頭を小突かれた。
< 61 / 67 >

この作品をシェア

pagetop