エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
「どういう意味です?」

「君の卒業まで一年ある。その間は婚約者として振る舞って、卒業したら別れればいい。ストーカーについてはこの一年で必ず解決させる。
だから、君が無理に好意を抱く必要はない。悪い話じゃないだろう」

要するに、互いの利害を一致させるために一年間、婚約したふりをしていようということだ。
確かに悪い話ではない。

「でも……」

そんなことをして、本当に上手く行くのだろうか。

「もしかして、付き合っている人や、婚約を知られると困る人がいる?」

「いえ、そんな人はいません。わたしはとても心強いですけれど、慧さんはお忙しいのに迷惑なだけなんじゃ……」

「俺にもちゃんとメリットはある。だから気にしないで。婚約者のふりをするという、一年契約のビジネスだと思ってくれればいい」

「ビジネス……」

婚約を装い、卒業後の結婚はなし。
ストーカー対策もしてくれるということならわたしが断る理由もない。梧桐のおじさんの顔もたてられるし、お父さんが罪悪感を抱いてしまうこともなんとかしたいと思っているのは事実だ。

甘えてよいのだろうか……。

「では……お願いできますか。助けていただきたいです」

返事はやけに緊張した。
慧さんは口の端を持ち上げた。

「よし。では今日から俺たちは婚約者同士だ。君は俺が守ろう。安心してほしい」

向けられた笑みは頼もしい。
心臓がドキッとした。

その後、連絡先を交換したり、婚約者としてお互いのことを話し合った。
わたしの事件についても、改めて確認のため経緯を話す。

慧さんは、こういった事案は相手を刺激してもいけないから、警察が表だって動くにはタイミングが重要なのだと説明してくれた。
寧ろ、相談したことも秘密にした方がいいことも多いらしい。

わたしは不安でしかたがないと訴えた。
誰を信じていいのかわからなくて、誰にも相談できずにいた。

理央になら話せると思うこともある。けれど、いつも暗い話では嫌だし、理央の負担になってしまうのがいやだった。
だから、中にはお父さんも理央もしらない内容もあった。慧さんに話せたのは、SPという職業への信頼感からか、それとも彼が聞き上手だからか。
ずっと真剣に聞いてくれていた。

相づちが優しくて、うんと返事がある度に、大丈夫だよといってもらっている気がした。

溜め込んでいた不安が爆発したみたいに、わたしは止めどなく吐き出した。

「勇気を持って話してくれてありがとう」

その言葉をもらった時、緊張の糸が切れて号泣してしまう。
ずっと、周囲から色んな声が聞こえてきて、誰が味方かわからなかった。
初めて、心をゆだねていいのだと思える人にであった。

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