Macaron Marriage
* * * *

 パジャマのまま窓から星空を眺めていた池上(いけがみ)萌音(もね)は、大きなため息をついた。小高い丘の中腹に建つこの別荘は萌音の両親が所有するもので、長期の休みに入ると必ず家族でやって来ている。

 いつもならばここを起点にしながら父の車で出かけるのだが、父が急に仕事で呼び出されてしまった上、年の離れた姉たちは大学があるということで来られず、萌音は別荘から出ずに母と二人でのんびりと過ごしていた。

 本当は今日は牧場に行って、動物の餌やりをしたり、ソフトクリームを食べる予定だったのになぁ……。でも明日にはパパも帰ってくるって言ってたし、それを楽しみにして今日はもう寝ようかしら……。

 そう思うのに、まだ寝るのはもったいない気がして星空を眺めていた。

 こんなきれいな星空、東京では絶対に見ることは出来ない。だからこの別荘が好きなの。見えないものが、こんなにも鮮やかに見えるんだもの。

 その時だった。

「なにしてるの?」

 突然男の人の声がして、萌音は驚いたように辺りを見回した。部屋には誰もいないし、窓の下に広がる広い庭にも人の気配はなかった。

「あはは! そっちじゃないって! こっちこっち!」

 萌音が暗がりの中で目を凝らすと、別荘を囲むように建てられたレンガの塀の上に、誰かが腰掛けているのが見える。ただすぐ隣に大きな木があるため、その人物の顔は葉の影になって見えなかった。
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