放課後の音楽室で
「驚いた?」

「…うん。結構…」

そう答えると、暗闇の中、佐久間のふふふっという笑い声が聞こえた。

「…私の親って、結構勝手よね。娘ほっといてるけど、結婚相手は決めちゃってる」

佐久間が親に対して、不満っぽいことを言ったのを聞いて、ちょっとだけ本心が見えた気がした。

「佐久間はそれでいいの?嫌だったらそれを伝えるとか…」

「ううん。私には嫌だって言う勇気ないよ」

勇気…?

「…勝手に決まってた事に、嫌だって言うのにそんなに躊躇う?」

だって、望まない事なら、佐久間の気持ちは絶対伝えたほうがいいと思う。

「言えない…かな。だって、ここまで育ててもらってるし、不自由なく過ごせてる」

なんだろう。佐久間の言葉に、すごく悲しくなる。

かける言葉に困っていると、佐久間は足を止めて、振り向いた俺をじっと見た。

街灯の灯りが、無理して作った笑顔の佐久間を照らす。










「…私、本当の子どもじゃないから」











「えっ?」






俺の思考が停止した。










「実はね、私の家って結構複雑で…。本当にびっくりするくらい」

そう言って、一度言葉を止めて、深呼吸をする佐久間。

「無理して話さなくても…」

「ううん……言わせて」





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