放課後の音楽室で
「…つまらないものですが、受け取ってください」

お父さんは、そう言って手提げの紙袋を差し出す。

この袋って…

「あら、プリンの有名な…あのお店ですね?お気遣いしていただいてすいません…」

上田くんのお母さんは、紙袋を受け取って、それを斜め後ろにいた上田くんに手渡す。

上田くんは、じっと紙袋を見て、ちらっと私の方を見た。

この包みは、たった今、食べたプリンの売っているお店のもの。

「…プリンで有名のようですが…私のオススメは、パンナコッタなので、今日はそちらを選びました…」

えっ…

お父さんの言葉に、今度は私が上田くんの方を見る。

さっきの上田くんとの会話とそっくりだったから。

上田くんは、意外な共通点にどんな反応をしていいか困惑している。

その様子がおかしくて、思わずクスッと笑ってしまった。

「…どうしたんだ、文乃」

お父さんの声が聞こえたけど、笑いが止まらなくて、何も答えられない。

「あっ、いや、さっき、俺がパンナコッタがおすすめだって話してたので…」

私の代わりに上田くんが答える。

チラッっとお父さんを見ると、気まずそうな表情をしていた。

「…文乃、帰るぞ」

「は、はい…」

靴を履くと、まだ靴は濡れたままだったから足元がひんやりとした。



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