片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 まさかそんなことを言われると思わず、間抜けな声が漏れる。伊織さんほど眉目秀麗な男性に言われたのだ。お世辞だとしても恐縮してしまう。

 狼狽える私を見て、彼は小さく笑みをこぼした。

「……それから、これは個人的な話なのですが。職業柄わりと私生活は疎かになってしまうところがあって、食事管理をしてくれる女性がいると心強いなと」
「食事ですか……?」
「料理を仕事にされているくらいだから、お上手なんですよね。お仕事を続けたいとなれば無理にとは言いませんが、時間がある時は作ってくれたら助かります」

 つい最近まで結婚願望もなければ、自分は結婚とは無縁の人間だと思っていたため、今後仕事を辞めるかなんて考えたことはなかったのに。彼の言葉が嬉しくて、咄嗟に頷いていた。

「は、はい。私でよければ毎日でも。……あっ」

 返事をしたあとで、すぐ我に返る。これじゃあ既に縁談を受けたような答え方だ。

 私の言葉を受け取った彼は、すこぶる穏やかな笑みを浮かべた。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 今日初めて見た優しく柔和な微笑みに、大きく胸が高鳴る。

 その表情があまりに魅力的で、一瞬で心を奪われたのだった―― 


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