片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 口元を緩く結び上げ、彼がフォークを口に運ぶ。その動作があまりに美しく、思わず手を止めて見入ってしまった。

「……どうかした?」
「あ、ううん。何でもない。今日は何か変わったことはあった?」
「いつも通り。院長に緋真が作った弁当羨ましがられたくらいかな」
「院長先生に?」
「たまたま昼休憩のときにお会いして」

 伊織さんが勤める東梨医科大学病院の院長先生は、元は形成外科部長を務めていた方で、伊織さんとは出身大学も同じなど共通点が多いらしい。それもあって医学生時代から特別気にかけてもらっており、たまにこうして話に出てくるのだ。

 私たちの結婚式にも出席していただいたが、とても物腰が柔らかい印象を受けた。

「院長先生に褒めていただけるなんて、光栄だな」
「誰だって褒めたくもなるさ。味はもちろんだけど、見た目も売り物以上に綺麗なんだから」
「あ、ありがとう……」

 伊織さんは結婚する前から、事あるごとに私の自己肯定感を高めてくれる。彼としては素で言っているようだが、面と向かって褒められる度にドギマギしていた。

 それは褒められること自体に慣れていないのもあるけれど、一番の理由は――

「毎日こんなに美味しい料理が食べられて、俺は幸せ者だな。ありがとう、緋真」

 そう言って穏やかな笑みを浮かべる彼に、胸がきゅうっと締め付けられた。その笑顔だけで胸がいっぱいになり、食欲もどこかへ行ってしまうほど。

 ――言うまでもなく、お見合いの日から私は伊織さんに心を奪われている。はじめはおそらく一目惚れ。その後は、彼を知れば知るほど、日に日に気持ちが大きくなっていった。
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