BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
今は会議室に二人きり。
亮平がゆっくりと少し近づく。

「久しぶり」
「本当に。1年半ぶりかしら?」
「そうだね」
なんだか、居心地悪そうな亮平。

そんな彼を見て、私はわかってしまった。
きっと、嫌がらせの犯人を知っている。

「身近な人の仕業だったのね?」
「ああ」
バツが悪そうに、私を見る。
こんな顔を見るのはいつぶりだろう。

1年半前。
久しぶりに亮平に会った時、私はひどく怒られた。
怒られたというより、罵倒。
そのくらい、ひどいことを言われた。

オープン以来一度も来たことのなかった私の店に、いきなり現れた亮平。
無言で私に近づき、
「何をどう考えたら、自分の子供を死なせたかもしれない男と一緒に暮らせるんだ!」
唾がかかるくらいの距離で怒鳴られた。
「・・・」
それに対して、何も言い返すことのできない私。

「なんであいつなんだよ」
「・・・」

「お前は母親じゃないのか?なんで、奏太の死にかかわった男と男女の関係になれるんだ!」
「・・・」
ただうなだれて、彼の言葉を聞くことしかできない。

「なんとか言えよ。奏太に悪いとは思わないのか?恥ずかしくないのか?」

それでも、私は何も言わなかった。
涙を流し、『ごめんなさい』と泣き崩れれば楽だと思う。
でも、私は謝らない。
『ごめんなさい』と言ってしまえば、剛との関係が間違いだったと認めることになる。
私だって、剛との暮らしが褒められたものでないのはわかっている。
でも、彼と暮らすことを選んだ。
そのための避難や中傷は甘んじて受ける覚悟はしている。

「お前がそんな女だったとは思わなかったよ。最低だな」
吐き捨てるように言うと亮平は店を出て行った。
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