モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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(そんな考え方もあるのか……)
 言われてみれば、一理ある気もする。呆然としていると、グレゴールは少し口調を和らげた。
「まあ、価値観が違うとのことだから、うっかり以前のやり方に従ってしまったのだろう。だが、今後は気を付けるように」
「はい……。すみませんでした」
 私は、ぺこりと頭を下げた。
「他に、直す所はありますか?」
「ふむ」
 グレゴールは、思案するように首をひねった。
「教師から意見を求められた時は、即座に答えるのがベストだ。とはいえ、この世界へ来て間もないお前には、まだ難しいことだろう。それはおいおいということで……」
「え、意見は言う方がいいのですか?」
 私は、思わず聞き返していた。
「以前の世界では、知識をひけらかしたり自分の考えを言いすぎたりする女性は、あまり好まれなかったんです。だから私、知っていても知らないふりをする癖が付いていて……」
「なぜ好まれないのだ?」
 今度はグレゴールが、目をぱちくりさせた。
「知識が多いということは、賢い証拠ではないか。どうしてわざわざ、知らないふりなどする?」
「自分が知っていることを、それを知らない女性に披露して、褒められることで喜ぶ男性が多かったんです」
「は……。何だ、それは」
 グレゴールは、どさりと目の前のソファに腰かけると、呆れたようにかぶりを振った。
「知識や教養が豊富な女と話せば、自分自身の向上になるというのに。新しい意見を聞くことも、そうだ。愚かなことよ」
 それで榎本さんはクリスティアンに好かれたのか、と私は合点した。この異世界でも臆することなく、自分の意見を述べたからだろう。私もそうしていればよかったと思うが、後の祭りだ。
「ハルカ。悪かったな」
 グレゴールは、唐突に言った。はい? と私は首をかしげた。
「今までお前を非難ばかりしてきたが、どうやらその原因は、お前のいた世界の愚かな男どもにあるようだ。男に好かれたいと思うのは、女の性。彼らの好みに合わせたお前ばかりを責めるのは、お門違いだろう」
 グレゴールの漆黒の瞳は、真摯な光をたたえている。私の脳裏には、約十年前の思い出が、唐突に蘇っていた。
(そうよ。好きでこうなったわけじゃ、ない……)
 不意に、胸に熱いものが込み上げた。
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