モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

5

「私でよろしければ、喜んで。光栄でございます」
 グレゴールは、先ほどまでの内緒話など嘘のように、にこやかに答えた。
「あら、そんな堅苦しい口調は止してよ。兄妹みたいなものでしょ?」
 カロリーネが、頬を膨らませる。
「昔とは違います。今は、身分や立場というものがございますから」
 そう言いながらも、グレゴールはカロリーネの誘いを受けるようだ。ダンスは普通男性側から申し込むものだが、カロリーネほどの地位の高い女性ならば、自分から誘うのもアリなのだろう。
「リラックスして、楽しむように」
 グレゴールは、一言私にそう言い残して、カロリーネと行ってしまった。そう言われても、緊張する。エマヌエルに声をかけられたらどうしようかと思ったが、近付いて来たのは主催者のクライン公爵だった。
「ハルカ嬢、私と踊っていただけますかな?」
「喜んで」
 ほっとしながら、差し出された手を取る。次の曲が始まると、公爵は微笑みかけてきた。
「このような場は、初めてだとか。さぞ緊張されていることでしょう」
 そうですね、と私は頷いた。
「困ったことがあったり、不逞の輩に絡まれたりしたら、すぐにご相談ください……。特に、エマヌエル様」
 公爵は、不意に声を落とした。
「お気を付けくださいね。女性には、ひどくだらしないとか」
 チャラ男感満載だったもんなあ、と私は思い出した。公爵が、ぶつぶつ言う。
「本来、あのご兄妹はご招待する予定ではなかったのですが。直前になって、参加させるようにと言われましてね。立場上、お断りはできませんでした」
 王族ならば、当然だろう。私が顔を曇らせたのに気付いたのか、公爵は慌てたように言った。
「失礼、不安を煽ってしまいましたね。大丈夫ですよ。私が留意しておりますから。実はグレゴール殿からは、自分がいない時にあなたに何かあればよろしく、と頼まれているのです」
「そうだったのですか?」
 私は、目を見張った。
「ええ。当家とハイネマン家は、古くからの付き合いでしてね。長男のアルノーとグレゴール殿は、良き友人同士でもあるのです」
 屋敷を出る前に、グレゴールが言及していた人か、と私は思い出した。メルセデスに好意を寄せているような口ぶりだったが。
「何より、グレゴール殿のお父上には、それはお世話になったものです。ですから、そのご恩返しも兼ねて、大切におもてなしいたします。何なりと、頼ってくださいね」
「ありがとうございます!」
 私は、心から礼を述べた。それでグレゴールは、私のデビューの舞台をここにしたのだろう。彼の心遣いに、私は深く感謝したのだった。
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