モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 呆然としていたその時、がやがやと話し声が近付いて来た。若い娘たちの声だった。
「ほら、あちらにいらっしゃるわ! 異世界から来られたご令嬢」
「是非、伺いましょうよ。どうすれば、あんな素敵な爪にできるのか」
「とっても、可愛らしいわよね!」
 見れば、数人の娘たちが、バルコニーへと向かって来る。意外な反応に、私は驚いた。カロリーネにはディスられたけれど、どうやらこの爪は好評らしいではないか。
(ちょうどいいや。カロリーネ様から逃げるチャンスだわ)
 立ち上がり、挨拶しようとカロリーネの方を向き直って、私はぎょっとした。彼女は、真っ青な顔をしていたのだ。
「一体、どうされ……」
 言葉の途中で私は、カロリーネのドレスの胸元に、大きな染みが付いているのに気付いた。向かい合って話していたつい先ほどまでは、無かったものだ。
「失礼しま……」
 折も折、娘たちがバルコニーへと入って来た。彼女たちは、カロリーネを見て目を見張った。
「カロリーネ様、どうなさったのです!?」
「そのドレス、ひどい染みじゃございませんの!」
 口々に叫んだ後、彼女たちは私を見た。……そして、私とカロリーネの間にあるテーブルを。その上には、カロリーネが持って来たシャンペンのグラスがあった。
「あなた、カロリーネ様に何て真似を!」
 どうやら、私がシャンペンをぶっかけたと思ったらしい。私は、慌てて否定した。
「違います、私は何も……」
「嘘仰い!」
 娘たちは、信じていない様子だ。そして私は、おやと思った。カロリーネの前に置かれたグラスは満杯だが、私の前にあるグラスは、中身がほぼ無いのだ。私はシャンペンに口を付けていないし、がぶがぶ飲んでいたのはカロリーネの方だったのに。
(自分で自分のシャンペンをドレスにかけた後、カモフラージュにグラスをすり替えた……?)
 やって来る娘たちに気を取られて、室内に目を向けていたから、カロリーネがやったとしたらその隙だろう。必死に弁明の言葉を探していると、カロリーネはなぜかにっこり笑った。
「皆様、お騒がせしたわね。私、結構酔っちゃったみたいで。そそっかしいったらないわ」
 だが娘たちは、疑惑の眼差しで、二つのグラスを見比べている。明らかに、私の前のグラスが減っているのだから、疑われても当然だろう。これでは、カロリーネが私の粗相を庇っているとしか見えない。
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