モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
第二章 あざかわテクは全滅みたい

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 こうして私は、早速グレゴールの屋敷に連れて行かれた。さっきまで居た場所は、クリスティアン王子所有の離宮だったらしい。ちなみに聖女召喚の儀式については、厳重に口止めされた。
「召喚の際に、お前の話す言語は、こちらの言語に変換される仕組みになった。お前の耳に入る、我々の言語も同様だ。だから、意思疎通は心配無い」
 グレゴールは、そんな風に補足した。
 ハイネマン邸は、離宮からさほど遠くない距離にある、古めかしい建物だった。グレゴールに連れられて入ると、初老の男性が迎えに出て来た。穏やかで優しそうな人だ。服装から察するに……、執事っぽい。
「お帰りなさいませ、旦那様」
 男性は、グレゴールに向かって丁重に挨拶した。
(旦那様?)
 グレゴールが、この屋敷の主人なのだろうか。あれこれ想像していると、グレゴールは男性に何事か耳打ちした。合点した、といった様子で男性が頷く。
「ハルカ様、ようこそおいでくださいました。私は、当家の家令を務めるヘルマンと申します。お困りのことがあれば、何なりと仰ってくださいね」
 予想通り、執事的な存在らしい。私は、精一杯の笑顔を浮かべてヘルマンに挨拶した。
「お世話になります! こんな素敵なお家に来られて、感激ですう。すごく趣あるって感じですよね!」
 無難に褒めたつもりだったのだが、ヘルマンはなぜか、さっと顔色を変えた。
「おお、私としたことが、失礼いたしました!」
 言いながら彼は、なぜか膝を折った。姿勢を低くして、私と目線の位置を合わせようとする。私は、きょとんとした。
「あの、ヘルマンさん? 何を……?」
「何って、私の顔の位置が高いから、視線を合わせるのに苦労されたのでしょう? ハルカ様は、小柄でいらっしゃいますものね。気が利きませんでした」
 私は、あんぐりと口を開けた。男性と話す際は、無意識に上目遣いをする癖が付いているのだけれど、こんなリアクションは初めてだ。
「無理に見上げようとされると、首を痛めてしまわれますよ」
 ヘルマンは、心底心配している様子だ。私は、慌ててかぶりを振った。
「い、いえ! 大丈夫ですから、姿勢を戻してください!」
(はあ~、調子が狂う……)
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