モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

3

「やったじゃない、ハルカ!」

「おめでとう。次はあなたね!」

 マリアたちに祝福されながら、私は呆然と、花束を抱えていた。それは、まるで吸い寄せられるかのように、私の胸に収まったのだ。

「あら、キャッチされたのって、あなた?」

 マルガレータが、いそいそと私に近付いて来る。私は、慌ててドレスの裾をつまんで挨拶した。

「この度は、おめでとうございます。そして貴重なブーケを、ありがとうございました」

「堅苦しい挨拶はいいわよ! あなた、異世界から来られたのですって? ギュウドンとかいう美味しい食べ物を作れるそうね」

 もう伝わっていたとは、と私は目を丸くした。今や彼女の夫となったクリスティアンも、やって来る。

「彼女は、ギュウドンにひどく興味を持っていてな。米の輸入にも、たいそう意欲を燃やしている。そなたの世界での料理が、正確に再現できるかもしれないぞ」

「ありがとうございます!」

 リアル牛丼が、イルディリア王国で流行るかもしれない。私は、期待に胸が膨らむのを感じた。するとそこへ、グレゴールが口を挟んだ。

「クリスティアン殿下。本日は、まことにおめでとう存じます。私も、感無量でございました」

 そして彼は、やや言いづらそうに続けた。

「ご多忙のところを恐縮ですが、この後……」

「ああ、わかっておる。世話になったマキ殿のことだからな」

 クリスティアンは、神妙に頷いた。

 榎本さんは、日本へ帰るのである。クリスティアンが健康を取り戻し、挙式の日を迎えた以上、彼女の役目は終わった。というわけで、早速帰還の儀式をして欲しいと、榎本さんは言い出したのだ。儀式を行うのはグレゴールだが、クリスティアンと私も、見送る予定である。  

「では、早速離宮へ向かうとしよう。ではマルガレータ、すまぬがここで失礼する」

「はい、承知しましたわ」

 マルガレータは、あっさり頷いた。グレゴールは、もう二台の馬車を手配している。クリスティアンとお付きの者たち、そしてグレゴールと私は、分散して乗り込んだ。

 離宮に到着すると、グレゴールはクリスティアンを引き留めた。

「殿下。儀式の前に、少々お話をしてもよろしいでしょうか。……私事でございますが」

「何だ? そなたがそのようなことを申すなど、珍しいな」

 クリスティアンは怪訝そうにしながらも、快諾した。

 グレゴールが、私も来るようにと言うので、従う。クリスティアンは、私室らしき部屋にグレゴールと私を通すと、家臣らを去らせた。

「で、話とは?」

 ソファにゆったりと腰かけながら、クリスティアンが尋ねる。するとグレゴールは、信じられない行動に出た。彼は、私の肩を抱くと、クリスティアンの目を見つめて告げたのだ。

「お忙しい中お時間を取っていただき、感謝申し上げます。私は、このハルカを妻に娶りたいと考えております。ついては、許可をいただけませんでしょうか」

 私は、息を呑んだ。

(グレゴール様、本気で……? というか、突然すぎ……)

「……ほう」

 クリスティアンは、黙って私たちの顔を見比べていたが、やがて腕を組んだ。

「それは賛成しかねるな。私は、ハルカ嬢を気に入っておる」

 私は、思わずグレゴールの横顔を見た。

(これ、まずいのじゃ……?)

 クリスティアンは、淡々と語っている。

「マルガレータとの結婚が無事成立したのは、そなたのおかげだ。その件は感謝しておるし、彼女の虚弱説が偽りであったことも判明した。だが、それとこれとは別の話。私は、是非このハルカ嬢を、側妃に迎えたいと考えておる」

 私は、おろおろとクリスティアンとグレゴールを見比べた。グレゴールは、どう答える気だろう……。
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