モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

5

「領民たちから信頼を得ることは、領主夫人の一番の条件だ。俺の目に狂いは無かった」

 グレゴールは自信たっぷりに語っているが、私はふと気付いた。

「あのですね、グレゴール様。よくよく考えたら、私はあなたから、一度もプロポーズされていない気がするのですが。私が断るという可能性は、考えられなかったのですか?」

「考えなかった」

 グレゴールは、即答した。

「俺を愛しているのだろう? 戦火まっただ中の王都へ、飛んで帰って来るくらいにな」

「いや、それはそうですけど……」

 何という自信だ。それに、とグレゴールがけろりと続ける。

「もう王太子殿下の御前で宣言したのだ。撤回は不可能だぞ」

「究極の外堀固めじゃないですか……」

 口では文句を言いつつも、私の胸は温かいものでいっぱいだった。絶対に手が届かないと思っていた人の、妻になれるのだ。

(夢みたい……)

 ブーケのジンクスは本当だったなあ、としみじみ思っていると、クリスティアンが戻って来た。

「マキ殿へのご挨拶は終わったぞ。ハルカ嬢は? 友人に別れを告げなくていいのか」

「あ、はい。伺います!」

 私はグレゴールに連れられて、儀式に用いるという部屋へと向かった。そこには、見覚えがあった。最初に召喚された時の部屋だ。

「では、最後に思う存分話すがよい」

 グレゴールは、そう言い残して去って行った。

 恐る恐る中へ入ると、榎本さんがぽつんと床で膝を抱えていた。召喚された時に着ていた、パンツスーツを身に着けている。

「セシリアとウォルターは?」

「元いた世界へ帰ったよ。彼らの役目も、終わったしね。まあ、もう力を借りるような事態にならなきゃいいんだけど……」

 そういえば聖獣は、この世界に常駐しているわけではないのだった、と私は思い出した。彼らが招かれるのは、イルディリア王国内で災厄が起きた時だ。確かに、そうならないに越したことはないのだろうけれど……。

「お礼、言いたかったのになあ。助けてくれて」

「気にしなくていいよ。美味しい食事のお礼だって、セシリアたち、そう言ってた。一緒に過ごせて楽しかった、ともね」

「それなら、いいんだけど……」

 榎本さんが、念を押すように、尋ねる。

「北山さんは、本当にここへ残るんだね? 後悔、しないね?」

「うん。実は……」

 グレゴールとの結婚が決まった、と伝えると、榎本さんはやっぱり、という顔をした。

「超熱烈にキスしてたもんね?」

「何で、それを……、あっ」

 私は、ハッと思い出した。

「セシリア~、ウォルター~……」

 真っ赤になって顔を覆った私の肩を、榎本さんはぽんぽんと叩いた。

「いやいや、よかったじゃん? 巻き込んじゃって悪かったって、ずっと思ってたけど、北山さんが幸せならそれでいいのかなって、今は思えるよ……」

「幸せだよ」

 私は、力強く頷いた。
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