モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

7

 いつの間に戻って来たのか、グレゴールが待機している。

「別れは済んだか?」

「はい」

 彼が部屋へ入るのを見届けると、私は廊下に佇んで、榎本さんの言葉を反芻した。

(女は誰でもあざとい、か……)

 日本にいた時は、『あざかわ女子』と散々陰口を叩かれてきた私だったけれど。もしかすると、それほど卑下する必要は無かったのかもしれなかった。

(ま、いいや。取りあえずこれからは、ありのままの自分で行こう。そこを、グレゴール様も気に入ってくださったのだし……)

 そういえば、今後は彼を何と呼べばいいのかな、と私は思った。

(夫婦になるってことは、やっぱり呼び捨て? でも当主様だから、様は付けた方がいいのかな……)

うっすらにやけていると、扉が開いた。

「儀式、もう終わったんですか!?」

「ああ」

 慌てて室内をのぞき込めば、中はもぬけの殻だった。あっという間過ぎて、寂しい。呆然としていると、グレゴールは咳払いをした。

「ところでハルカ、お前に聞きたいことがあるのだが」

「何です?」

 グレゴールの表情は妙に険しくて、私はきょとんとした。

「お前は、以前の世界に想う男がいたのか。マスダサンとか何とか、聞こえたが」

「ちょっ……、何立ち聞きしてんですか!」

 私は、かっと顔が熱くなるのを感じた。

「立ち聞きではない。そろそろ別れの挨拶も済んだかと思って、部屋の前まで来たら、何やら気になる会話が聞こえてきた。それで少し足を留めていただけだ」

「それが立ち聞きでなくて、何ですか!」

 私は、口を尖らせた。

「確かに、前の世界でその人を好きでしたけど。でも、昔の話です。もう彼のことは、何とも思っていません」

「本当か?」

 グレゴールが、疑わしげな眼差しをする。私は、イラッとした。

「そうですよっ。大体、この世界へ残るということが、何よりの証拠じゃないですか」

「……確かにその通りだな」

 ようやく納得したように、グレゴールが頷く。私は、彼をじろりとにらんだ。

「グレゴール様、案外ヤキモチ焼きですね」

「当然だろう」

グレゴールは、なぜか胸を張った。

「お前には、牡馬一頭ですら近付かせないつもりであるから、覚悟しておけ」

 グレゴールが、私をきつく抱き寄せる。何だか、すごい宣言をされた気がするのだけれど。意外なほどの独占欲に驚きつつも、それを不快に感じない自分がいた。

 瞳を閉じれば、唇が重ねられる。グレゴールの温もりに浸りながら、私は心の中で呟いた。

(さよなら、榎本さん。私は、この世界で幸せになるよ。だから、あなたもね……)

 
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