キスだけでは終われない

壇上近くで接待している祖父と父に近づき声をかける。

「遅くなりました。お祖父さん誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。待っていたぞ。それより、シンガポールの方は順調かね」

「ええ、本当は今日までに帰国できれば良かったのですが、少し遅れまして来週には帰国出来るかと考えてます」

すると社長である父が横から口を挟んできた。

「もう戻れるようになるとは、ずいぶんと早いな。和樹から聞いていたが寝る時間を減らして仕事を詰め込んでいたそうじゃないか?」

「早く日本に戻りたい理由があるんですよ」

「まあ、多少の無理はしても身体を壊さない程度にしなさい」

「はい。では来場された方へ挨拶をしてきます」

二人から離れ、知り合いに声をかけようと会場内を見渡していた。

そこで、何度も夢に出てきては俺を悩ます彼女の姿を見つけた。

「間違いない、彼女だ。まさか今日ここで会えるとは…」

運命的なものを感じ一気に気分が跳ね上がる。

ドキドキ、と自分の鼓動が速くなるのが分かった。 
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