キスだけでは終われない
月の光とあの人に酔わされて

シンガポールは3年ぶり。
家族で何度も訪れていたため、一人で来るのは初めてだけれどたいして不安はなかった。
毎回どこかしらに変化のある街に活気を感じ、パワーをもらえる気がする。

まずはセントーサ島へ行き、ホテル”イル・ピュ・フィーネ シンガポール”にチェックインをする。

一人部屋に入りベッドに寝転がると、この3ヶ月で自分に起きたことを思い返していた。

始めは戸惑うばかりの毎日だった。それでも変わりたい、もっと自分に自信を持っていきたいという気持ちで、彩未ちゃんにいろいろ指南を受けた。
まだ完全ではないけれど、今の状態の自分にはだいぶ慣れてきた。

彩未ちゃんは時間が取れる時には服のコーディネートをしてくれたり、一緒に外出してくれた。

それからお祖父さまと一緒にパーティーにも2回ほど出席した。パーティー会場で一人になることを避けるため、彩未ちゃんが一緒に参加してくれたのだけど、彩未ちゃんが側にいると男性が寄ってくるので、ある意味すごくリハビリになったと思う。

そんな感じで過ごしていたら、彩未ちゃんが前に話していた自分磨きをしてみたくなり、この旅を計画した。

ここのホテルは横浜の美術館にある父の絵の風景が見られる場所。父が描いていた頃にはまだホテルは建てられていなかったそうだけど、カフェのテラスにいると昔感じた景色を堪能できると言っていた。

父が母と出逢い恋に落ちた場所だとも聞いていたから、自分にも…と、ほんの少しの期待と憧れを抱いていた。
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