キスだけでは終われない

「本当に素敵な人だったな…」そんなことを呟く。

昨夜はお酒と月に酔わされて、流されてしまったかも知れないけれど、あの人に抱かれたことに後悔はない。
今まで自分の中にあった呪縛のようなものがなくなった気がしていた。

「きっと彼以上の人はいないだろうな…」

誰かに求められる喜びを知った…それがなにより自信になった気がしていた。

憧れはあったけど、まさか自分が出会ってすぐの人とこんなことになるとは考えてもいなかった…。

昔、母から聞いた父との出会いがまさに同じような状況だったことは記憶に残っている。二人はそのまま結婚してしまったけど、祖父に許してもらえず、しばらく絶縁状態になってしまったと言っていた。

私にはお祖父様が用意した縁談を断れるほどの強い意思はないし、母のように家を出る決心はつかないと思う。

あの人の私を見つめる眼差しや優しく触れてくれた感触、私の名前を呼んでくれた声が鮮明に思い出され、しばらく忘れられそうもなかった。
でも、そのまま付き合うなんてことにはならないから日本に帰って、また日常に戻るのだ。

スーツケースに荷物とともに想い出も詰めていく。

「もう男の人は怖くない」
改めて暗示をかけるかのように声にだし、日本に向かったのだった。
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