キスだけでは終われない
リアルな彼女と鮮明な記憶

彼女の温もりが忘れられず、彼女に去られたあの日から少しでも早く日本に戻りたくて、スケジュールを詰め込んで、あと少しでシンガポールでの仕事が終わる目処がたった。

そんな頃に祖父の喜寿を祝う会があり、一時帰国することになった。日本に戻るならと彼女の着ていた服を荷物の中に入れた。
 
彼女の残していったあのワンピースは『リュクスマリエ』の物だということがわかり、ショップに行って購入者の身元を突き止めようと考えていた。

今時、個人情報を簡単には教えてくれないことは理解しているが、やっと掴んだ手掛かりなので、使わないという選択肢はなかった。

「いらっしゃいませ」

「こちらのワンピースなんですが、購入された方にお返ししたいと思っているのですが、連絡先などがこちらで分かればと思ってきました。教えていただくことは可能でしょうか」

「申し訳ございませんが、当店では購入されたお客様の情報は外部の方にはお知らせ出来ないことになっております」
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