もう嫌い! その顔、その声、その仕草。
「ここにいる間は自分たちの家だと思って好きに使って頂いて構いません、と会長からの伝言です」

 再び下のリビングに集められ、一人一人この家の合鍵を渡される。受け取ったそれをバッグに大事にしまうと、伊織から今日の予定を聞かされた。

「とにかく短い期間に色々詰め込んでるから、せめて今日のうちに打ち合わせだけでもって⋯⋯」

 人を集めておくという連絡は受けたのだが、肝心な場所がまだ教えられていないのだと伊織は困惑顔。すると少し申し訳なさそうに話に割り込んできた支配人から、隣にあるもう一件の別荘に来てもらうようにとの連絡を受けていたのだと教えられた。

「隣はどなたが?」

 玄関を出たところで視界に入るこれまたオシャレな建物に、あかりが先行くその人に興味ありと尋ねる。

「あちらにはデザイナーさんとそのアシスタント、スタッフの方々が皆様同様、同じ期間のご滞在で。デザイナーの皆様は今はホテルの方で打ち合わせを行っておりますのでご不在ですが、アシスタント、スタッフの方々は全員お揃いでお待ちになられてます」

 丁寧な言葉で説明してくれるその人に、揃いも揃って「はい⋯⋯」と頷くだけ。進む足取りには些か、戸惑いの音が混じっていた。
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