秋恋 〜愛し君へ〜
その夜は彼女の部屋で一晩中過ごした。
俺はずっと彼女の肌に触れていた。容赦なく襲いかかる欲情を抑えるのに必死だった。そしてやっぱり我慢した。
気を紛らすため、いろんな話をした。
俺の家族全員の名前が季節に関係しているということ。建設会社勤務で、どんな事でも筋を通したがる父親は『冬彦』8歳年上でいまだに独身を満喫している姉貴は『夏』3歳年下で医大生の弟は『春』そしていつものほほ〜んとしていて、頑固親父のわがままをニコニコしながら聞き入れている専業主婦の母親は『四季』これには樹も感心していた。
樹の家族は、町役場勤務の親父さん。近所のスーパーでパートをしているお袋さん。2歳年上で県庁勤務の兄貴。その嫁さんが樹の同級生だということ。勇次とぶつかったあの日、なぜあんなに急いでいたかということ。それは、その日早番だったキャプテンが過労で倒れ、オフだった樹に突然出勤の電話がかかってきたからだった。そして勇次のこと。普段はバリバリの関西弁なのに、仕事となると一切関西弁はでず、関西のイントネーションにもならないのは何故だろうということ。
「それも一種の職業病じゃないの?」という樹の見解に「なるほど」と納得してしまった。それからもちろん、お気に入りの河川敷の話もした。樹の故郷に2人で行くことも約束した。
俺の知らない樹をたくさん知りたかった。
樹の髪を撫でながら、肌に触れながら、やっと掴んだ幸せが、どこへも逃げていかないように…
『女』という人を、こんなにまで愛おしいと思った事は無い。
朝日が眩しい。俺たちはいつの間にか眠ってしまっていた。先に目を覚ました俺のすぐ傍で彼女は眠っている。そっと唇にキスをするとゆっくりと目を覚ました。
「おはよう」
そう言って起き上がった彼女の上は少しだけ寝癖がついていて本当に可愛かった。同じ女でもボサボサ頭の姉貴とは大違いだ!
「朝ごはん食べるでしょ?何か作るわ。私はオフだけど、長谷川くんは泊まり番でしょ。ちゃんと食べて体力つけなきゃ」
「いやだ」
「えっ?」
「だから嫌だ」
「どうして?食べないの?」
「違う。長谷川くんが嫌だ」
「長谷川くんって言っちゃダメなの?」
「んっ、そう。仕事ん時は別だけど」
「そう…わかった秋ちゃん、ダメ?」
「んーっ、秋でいいよ」
「嫌よ!呼び捨てなんか絶対嫌!」
「んじゃわかったよ」
「決まりね。秋ちゃん」
「でも、俺は…」
「え?」
「呼び捨てしていい?樹って」
「いいよ、どうぞ」
「樹」
「何?」
「何でもない。呼んでみただけ」
「何よ、へんなのぉ」
この感覚夢じゃない。現実なんだ!
樹は朝飯を作ってくれた。トーストと目玉焼きのシンプルなものだったが俺にとっては最高の朝飯だった。
俺がテレビを観ながら寛いでいると、樹が時計を気にしはじめた。
「どうした?」
「来るかもしれない」
そうだった。笠原さんは泊まり明けだ。仕事は9時には終わる。もうすぐ9時だ。逃れられない現実が、俺の不安を掻き立てた。
「俺、帰るよ」
「ごめんね」
「謝んなよ」
「うん…」
「大丈夫か?」
「うん」
不安そうな表情の樹を俺はそっと抱きしめた。
「俺、待ってるから。樹のことちゃんと見てるから」
「秋ちゃん」
俺は急いで身支度をし部屋を出た。今の俺に出来るのは樹を信じて待つことだけだった。
俺はずっと彼女の肌に触れていた。容赦なく襲いかかる欲情を抑えるのに必死だった。そしてやっぱり我慢した。
気を紛らすため、いろんな話をした。
俺の家族全員の名前が季節に関係しているということ。建設会社勤務で、どんな事でも筋を通したがる父親は『冬彦』8歳年上でいまだに独身を満喫している姉貴は『夏』3歳年下で医大生の弟は『春』そしていつものほほ〜んとしていて、頑固親父のわがままをニコニコしながら聞き入れている専業主婦の母親は『四季』これには樹も感心していた。
樹の家族は、町役場勤務の親父さん。近所のスーパーでパートをしているお袋さん。2歳年上で県庁勤務の兄貴。その嫁さんが樹の同級生だということ。勇次とぶつかったあの日、なぜあんなに急いでいたかということ。それは、その日早番だったキャプテンが過労で倒れ、オフだった樹に突然出勤の電話がかかってきたからだった。そして勇次のこと。普段はバリバリの関西弁なのに、仕事となると一切関西弁はでず、関西のイントネーションにもならないのは何故だろうということ。
「それも一種の職業病じゃないの?」という樹の見解に「なるほど」と納得してしまった。それからもちろん、お気に入りの河川敷の話もした。樹の故郷に2人で行くことも約束した。
俺の知らない樹をたくさん知りたかった。
樹の髪を撫でながら、肌に触れながら、やっと掴んだ幸せが、どこへも逃げていかないように…
『女』という人を、こんなにまで愛おしいと思った事は無い。
朝日が眩しい。俺たちはいつの間にか眠ってしまっていた。先に目を覚ました俺のすぐ傍で彼女は眠っている。そっと唇にキスをするとゆっくりと目を覚ました。
「おはよう」
そう言って起き上がった彼女の上は少しだけ寝癖がついていて本当に可愛かった。同じ女でもボサボサ頭の姉貴とは大違いだ!
「朝ごはん食べるでしょ?何か作るわ。私はオフだけど、長谷川くんは泊まり番でしょ。ちゃんと食べて体力つけなきゃ」
「いやだ」
「えっ?」
「だから嫌だ」
「どうして?食べないの?」
「違う。長谷川くんが嫌だ」
「長谷川くんって言っちゃダメなの?」
「んっ、そう。仕事ん時は別だけど」
「そう…わかった秋ちゃん、ダメ?」
「んーっ、秋でいいよ」
「嫌よ!呼び捨てなんか絶対嫌!」
「んじゃわかったよ」
「決まりね。秋ちゃん」
「でも、俺は…」
「え?」
「呼び捨てしていい?樹って」
「いいよ、どうぞ」
「樹」
「何?」
「何でもない。呼んでみただけ」
「何よ、へんなのぉ」
この感覚夢じゃない。現実なんだ!
樹は朝飯を作ってくれた。トーストと目玉焼きのシンプルなものだったが俺にとっては最高の朝飯だった。
俺がテレビを観ながら寛いでいると、樹が時計を気にしはじめた。
「どうした?」
「来るかもしれない」
そうだった。笠原さんは泊まり明けだ。仕事は9時には終わる。もうすぐ9時だ。逃れられない現実が、俺の不安を掻き立てた。
「俺、帰るよ」
「ごめんね」
「謝んなよ」
「うん…」
「大丈夫か?」
「うん」
不安そうな表情の樹を俺はそっと抱きしめた。
「俺、待ってるから。樹のことちゃんと見てるから」
「秋ちゃん」
俺は急いで身支度をし部屋を出た。今の俺に出来るのは樹を信じて待つことだけだった。