秋恋 〜愛し君へ〜
俺たちはホテルに到着した。表の格調高いエントランスに比べ、従業員用出入口は実に味気ない。扉も自動ではないしエレベーターもない。ここから地下3階にあるロッカールームには階段を使って行くしかない。行きは下りだから良いものの、帰りはたまったもんじゃない。
扉のすぐ横には警備員室がある。小窓が設けられていて、必ず2人は常駐し、どちらか一方が出入りする人たちをチェックしている。カジュアルな格好した男女が、かわるがわる俺たちを追越し、警備員に向かって「おはようございます」と社員証を提示し中に入っていく。軽やかな者、足取りが重い者、眠そうな者と様々だ。こんな人たちが制服に着替え、一歩表に出れば、それまでの自分に蓋をし、プロのホテルマンとして澄ました顔でいろんな客に接している。接客されている側は彼らがそれまで何を思い、どんな顔でなんて事は全く知らない。事前に受けた研修で、先輩ホテルマンがこんなことを言っていた。

「プライベートの扉を開け一歩表に出れば、あなたたちは役者なんです」

全くその通りだ。
俺たちもあらかじめ手渡されていた入場許可証を提示し、強面の警備員に「おはようございます」と声をかけ、扉を力強く押して中に入った。ここは何時に出勤しようとこの挨拶なのだ。
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