桜の鬼【完】

そう言って、紙片を差し出した。そこにはお寺の名前と住所が書いてある。

「? これは……」

「言いにくいが、私の妹の墓所だ」

「! みき……」

「今度、結婚の報告に行くといい」

「……はい……! ありがとうございます……っ」

湖雪は泣きそうな顔を歪めて、そう言った。幹人は、すっと目を細め、娘を見た。

「やはり、お前は深雪によく似ているな」

小さくその言葉を残し、幹人は部屋を出て行った。

「湖雪……大丈夫?」

「はい……。幹人様が、お母さんを……」

湖雪の声は震えが止まらない。

「そうね。今度私も幹人様に連れて行ってもらわなくちゃ」

早子は冗談めかして言って、さあと湖雪に手を差し出した。

「行きましょう。貴女の結婚式よ」


+++


「湖雪様」

早子に手を引かれて歩く湖雪の許に、悟がやってきた。

「悟様」

「お綺麗です。いつにもまして雪華のようです」

「悟様……」

悟のもの言いに、さすがに湖雪は頬を赤らめた。悟は真っ直ぐな人だ。思っていないことは言わないし、思ったことは素直に言葉にする。総てを言葉にするわけではないが、嘘をつかない、夏桜院の世界では稀な人だ。

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