夫婦間不純ルール
「わかりました、雅貴もこれで貴女のことは諦めがつくでしょう。それでは失礼します」
「……はい、よろしくお願いします」
私を責めることもなく、マスターは笑顔でそう言うと奥の席へと向かって歩いて行ってしまった。いや、私が責められる理由なんてない筈だ。だけど、奥野君がこれで諦めがつくとはいったいどういう事なのか。
「さっきの男性、麻実ちゃんの知り合いなの? 渋くてカッコいいわね」
「もう、久我さんってばそんなこと言って。ただの知人です、これから関わることはもう無いと思いますけど」
大丈夫、奥野君に対して恋愛感情があったわけじゃない。ただお互いに心を慰め合うのに都合が良かっただけで、この選択を後悔なんてしないはずだ。
そう自分に言い聞かせていつも通りに振舞った。勘のいい久我さんは、それでもまだ心配そうにはしていたけれど。
前に進むには何かを吹っ切ることも必要で、それが今回は後輩の奥野君という存在だっただけ。再会しなければきっと思い出すこともなかったはずの彼に、少しだけ癒してもらった。
でも、良くも悪くも私たちはただそれだけの関係でしかなくて……
その日は結局少し暗くなるまで久我さんとおしゃべりをして、気持ちをリフレッシュして帰路についたのだった。