異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

102 交際宣言

「あなたの肌のこと、言いそびれてしまいましたね」

私の属性について予想とは違う結果だったため、彼の肌の色について報告するのを忘れていた。

「先に両親に見せてからでも遅くはないでしょう」
「レインズフォード卿」

神殿に向かうため、アドルファスと二人で王宮の玄関に向かうところを、カザール氏に呼び止められた。
隣には財前さんもいる。

「これから神殿に向かわれるのですね」
「はい」
「では、ご一緒させていただいてよろしいでしょうか。少しお話したいことがございます」
「……構いませんが」
「良かった。宜しくお願いします」

話とは何だろうと思いながら、レインズフォード家の馬車に四人で乗った。
このまま領地に向かうので、長距離用の実用的な馬車を使うことにしていた。振動が少ない仕様になっている。

「お話とは?」

アドルファスの隣に私、彼の向かいにカザール氏、その隣、私の向かいが財前さんだった。

「その…」

カザール氏はちらりと隣の財前さんの方へ視線を向け、私の方へ向き直る。
話はアドルファスでなく、私に?

「お二人が結婚すると伺い、私も…その、レイ様と…」
「え?」
「実は私達付き合ってます」

財前さんがカザール氏の腕を取り、ズバリと言った。

「え」  

二人を見て、そしてアドルファスを見る。彼も目を見開いて同じように驚いている。

「え、あの、財前さん…え、エルウィン王子は…」
「エルウィン? 私は歳上が好きなの。彼は顔はいいけど、同年代に興味はないです」
「あ、そ。そう…」

生徒の健康状態は把握していても、個人の好みについてまで知らないので、そうなのかと納得する。

「とは言っても、歳上がいいと言うよりは、彼が好きだから」
「いつから?」
「告白したのは先生が目覚めた後。でも会った時から気にはなっていたの」
「告白…財前さんから? だって、あなた、エルウィン王子を初めて見た時、恥ずかしそうにしていなかった?」
「それは、まあ…見た目は綺麗でしょ。でも、性格はいまイチ」
「そう…でも聖女と神官って…そのコンプライアンス的に…どうなの?」
「こ?」
「あ、えっと…規律違反にならないかと…」

職業倫理に違反していないまでも、日本でも彼女はまだ未成年だし、そこは気になるところだ。

「それに財前さんから告白したと言っても、カザール様はそれでよいのですか?」
「彼女のことは可愛く思っております。私の出来る範囲でお支えしたい。これがレインズフォード卿がユイナ様を想うのと同じ気持ちかどうかはわかりませんが」

二人で目を合わせ、照れあっているのを見ると、何とも初々しい限りだ。

「二人で話し合い、魔巣窟のことがもう少し落ち着くまでは周囲には伏せて置こうということになりました。それまでは、手、手を繋いだり、口づけだけの清いままでと…」
「そ、そう…」
「それに、過去に聖女と神官が結ばれた記録はあります。神官と言えども結婚は禁じられておりません」

既にアドルファスと一線を越えてしまっている私に何も言うべきことはない。それに、きっとこのことを知ればショックを受ける人物が一人はいる。公開するタイミングを見極めなければならない。

「二人がそれでいいなら…」
「先生は私の一番の理解者で私の心の中ではお姉さんと思っているので、ついでにレインズフォードさんもお兄さん?みたいに思っています。だから二人には報告しておきたくて」
「お兄さん…」

二人の交際宣言から黙ったままのアドルファスが、ようやく口にした言葉だった。
その表情からは、それに対してどう思っているのか読めない。

「あ、私が勝手に思っているだけなので、嫌なら二度と口にはしません」
「いや、私は他に兄弟がいないので、そのように呼ばれたことがなく…」

女性には慣れている筈の彼も、妹という存在には戸惑うらしい。

妹がいたら目の中に入れても痛くないような溺愛ぶりをしそうに思うのだけど。それは二人の時に教えてあげよう。

「私は一番末っ子だから、妹みたいな存在が出来て嬉しいわ。ところでカザール様はおいくつでいらっしゃるのですか?」
「カザールと呼び捨てで構いません。今年で二十七になります」

ということは、財前さんとは十歳差。アドルファスの両親の八歳差よりさらにニ歳上回る。

「先生…祝福してくれますか?」

財前さんが心配そうに私の反応を見る。

「私が反対したら諦めるの?」

反対するつもりは毛頭なかったが、一応聞いてみた。

「そ、それは」
「私に気に入らないところがあれば、仰ってください。ユイナ様に納得していただけるように精進いたします」

二人の様子に「娘はやらん」という父親の心境になる。

「冗談ですよ。二人のことは応援します」

そう言うと、二人から一気に力が抜けた。

「お兄さん」

神殿に着くまで、アドルファスは何度もブツブツと呟いていた。

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