異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

17 結婚観について

私の年齢が意外だったらしく驚かれた。

「申し訳ない…意外だったので驚いて、つい」
「もう少し年上に見えましたか?」
「その逆です。聖女殿より年上だとは思っていましたが…二十くらいかと」
「お世辞でもありがとうございます」
「お世辞ではなく…」

日本ではだいたい実年齢と同じ歳くらいに見られるが、ここでは随分若く見られるみたい。

「なら、ご結婚は? お子さんもいらっしゃるの?」

こっちでは二十九歳は子供がいてもおかしくないのだろう。日本でも結婚が早い人は早い。けれど結婚に興味がない人もいる。

「お付き合いしていた人はいましたが、そもそも結婚したいのかするかどうかはわかりません」

レディ・シンクレアの質問に正直に答える。

「それは、お付き合いの上で結婚しないという選択肢があるということなのかしら」
「学生の内のお付き合いなら特にそうです。結婚を前提にしてお付き合いをしたり、お見合いと言って、結婚を考えている者同士が引き合わされることもありますから」
「ユイナ殿は、そうではないのか?」
「取り敢えずお付き合いから始めて、その人とずっと一緒にいたいなと思えたら、考えてもいいと思っています。しいて結婚を意識はしていません」

お付き合い程度なら二人の問題で済むけど、結婚となると家族と引き合わせないといけない。それが怖くてなかなか踏み出せないところもある。単に結婚したいと思う人がいなかったということもあるだろうが、夫婦になって子どもを授かってという人生を、自分が歩みたいのかわからない。遺伝子レベルで引き合って、この人の子どもが欲しい、産みたいと思えるほど惹きつけられる男性に巡り会えていないのが現状だ。他の人がそこまで惹かれ合って結婚を決めているのかはわからない。離婚もまた結婚の数だけ可能性がある。死が別つまで連れ添える人を、果たして見つけられるのだろうか。

「変でしょうか?」
「いえ、こちらでは、あなたの年齢なら、もう結婚して子どもの一人や二人はいるので…」
「その男性とはどれくらいの期間付き合いを?」
「どれくらい…出会って二ヶ月ほどでした」

レディ・シンクレアと話していると、不意にアドルファス卿が聞いてきた。

「元の世界に戻って、その男性に会いたいと思っているのか」
「…いいえ、彼とは…色々と行き違いもあって…」

ゴールデンウィークに友人に誘われて参加した合コンで出会った男性がいた。その人と何回かデートしたけど、彼には別に付き合っている人がいた。私は二股をかけられていた。
それがわかり、この前別れたばかりだった。
二股されていたとは言いにくい。彼とは円満にお別れした…筈。別れを切り出した際に、お互い大人だから割り切って付き合おう。君と彼女とはそれぞれ違う魅力がある。とか何とか言われたが、二番手に甘んじるつもりはないと、きっぱりと断った。合コンに誘った友達が、後から謝ってくれたが、特定の相手がいて合コンに来る方が悪い。

「では今は決まった相手はいないということか?」
「まあ、はい。そうなりますね」

その人との別れた時のことをモヤモヤと思い出していると、やけに興味津々で食いついてくる。結婚感についても色々と異なってそうだし、二十九歳で独身は珍しいのかも。

「ごめんなさいね。根掘り葉掘りと…」
「いえ、お互いが理解し合うには情報は必要です。相手のことを知らないと変に誤解が生まれたり、偏見に繋がります」
「本当にそうね。でも興味はつきませんが、お話はこれくらいにしませんか? まだ時間はたっぷりありますし、ユイナさんもお疲れなのでは?部屋に案内させますね。ベラ」
「はい大奥様」

レディ・シンクレアに呼ばれて中年の女性が歩み寄ってきた。

「彼女をお部屋に案内して、湯浴みの手伝いをしてあげて」

湯浴みの手伝いって…温泉などで他人と入ったことはあるので、裸を見られることは致し方ないが、手伝いをしてもらう程ではない。

「あ、お部屋に案内していただれば、後は自分で出来ます」
「そうは言っても使い方もわからないでしょうし…気になるなら必要最小限のことだけしてもらえばいいわ」
「そ、それはそうですが…」

蛇口を捻ってお湯や水が出る仕様かどうかもわからない。ここは言われた通りにしよう。

「ではお願いね」

「ご案内いたします」

椅子にかけてあった白衣を腕にかけ、二人の方に会釈した。

「では、失礼いたします。ごちそうさまでした」

「色々不安なこともあるでしょうが、今夜はゆっくり休んでください」

「ありがとうございます」

「アドルファス、あなたはまだ話があるから、私の部屋に来てちょうだい」

食堂を出ていこうとする私の耳に、レディ・シンクレアがレインズフォード卿にそう言うのが聞こえた。

きっと私のことで何か話し合うのだろうな。それとも、別のことかも。

ベラさんも足が早いので、少し小走りでもう一度玄関に向かって歩き、二階に上がった。
三方向に伸びた廊下を奥に進み、突き当った角を右に曲がった。

「こちらです」

ベラさんに続いて入った部屋は、五つ星ホテルのラグジュアリースイートかと思うほど広い部屋だった。

広くて大きな窓。アンティークのような家具。大きなベッド。

屋敷の大きさから想像できた広さだったが、本当にここでいいのかと怖気づいた。

「こちらが浴室になっています」

右側には二つ扉があって、窓に近い方の扉をベラさんが示した。

「こちらは衣装部屋です。先程王宮から届けられたものは既に仕舞っております」

隣の扉はウォークインクローゼットらしい。
さっきレインズフォード卿が言っていた、王女様の子どもの頃の衣装がもう届けられたんだ。

「ここを捻るとお湯が出ます。こちらは水です。ここに刻まれている呪文と嵌められている魔石でお湯と水が出る仕組みになっています」

蛇口は私の世界のそれと同じ形をしていて、ホッとした。ただそこにあるのは蛇口だけで水道管は付いていない。

「魔石は一定期間使用して、新しいものに取り替えます」

どこまで日常の文明が発達しているか心配だったけど、蛇口を捻るとお湯と水が出るのは嬉しい。
後はお手洗い事情だけだ。
これも簡易トイレのようなものの底に洗浄魔法と転移魔法が刻まれた魔石が付いていて、転移魔法で屋敷の外にある肥溜めのような場所に飛ばされるようだ。

お湯を湯船に溜めている間にどれをどう使うかひととおり説明してくれた。

ベラさんは最後まで手伝いは本当にいいのか念を押した。申し訳ないがそれは丁重にお断りをした。
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