異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

67 防波堤は脆くも決壊

白銀の髪もアイスブルーの瞳も美しい。顔半分に傷はあっても美形なのは確かだ。
なぜ世間の人々は顔に傷があるくらいで彼を避けるのだろう。
体は左半身には大きな傷があるものの、四肢は健在で鍛え上げられた体は立派としか言いようがない。

「女性には優しく接するようにと言われましたが、具体的にどうすべきかまでは教わっていません」

じゃあ、彼がこうなのは経験があってのことなのだろう。
けれど続いて彼が口にした言葉を聞いて耳を疑った。

「閨指南も受け、関係を持った女性はそこそこいますが、本当に朝まで共に過ごした女性はいません。それに軽蔑される覚悟で言いますが、怪我を負ってからはその分野専門の女性としか関わっていません」

その分野専門というのは、いわゆる娼婦だとわかる。

「この関係はいつか終わりが来ます」
「どんな関係も、永遠に続く保証はありません。ほんの少し前に共に酒を酌み交わした者が、骸となるのを何度も見ましたから」

口元は微笑んでいるが、表情は硬い。
そうだ。彼は死と隣合わせの中で闘ってきて、人の命が一瞬で失われるような世界を知っている。
死の危険は日本と比べ物にならないくらい高く、ずっと身近に潜んでいる。

「決定権はユイナさんにあります。この関係を、終わりが来るその時まで続けるか。これっきりにするか。あなたがどう選択しても生活は保証します」
「すべて私次第と言うことですね」
 
黙って頷くアドルファスさんをじっと見る。
私にとって都合のいいことばかり。彼との関係をこれきりにしても、続けても今の生活は保証される。
どんな関係にも終わりはある。
おとぎ話のように、二人は幸せに永遠に暮らしました。というものばかりではない。
心変わりだったり、すれ違いだったり、どちらかが死んだり。永遠を約束しても何が起こるかわからない。

それに、ただ気の毒だからと庇護されるより、下心があったと言われた方が気は楽だ。
その下心に応えればいいのだから。
しかも彼との行為は、これまでの私の経験を覆すくらい刺激的だった。元の世界に戻って同じ経験が出来るかと問われれば、難しいだろう。

「ただし、予め言っておきますが」

これからのことを考えている私にアドルファスさんが付け加える。

「はい?」

顔を見上げると、アイスブルーの瞳が強い光を放っていた。

「どうやら私はかなり独占欲が強いみたいです」
「みたい?」

『みたい』ということは、彼自身も自分のことをよくわかっていないということなのか。

「これまで次があるかどうか気にしたことはなかった。共に過ごした相手が他の誰かと親密になったとしても、何とも思わなかった。自分とはそれまでの関係。その時が楽しければそれで良かったし、そういう相手とばかり付き合ってきました」

彼の手は腰の窪みからお尻を辿り、太ももに降りていく。適度に力を込めて触れているので、くすぐったくはないが、代わりに別の感覚が呼び覚まされる。

「ひと目見て欲しいと思ったのは、貴方が初めてです。たとえ終わりがあっても…いや、終わりがあるからこそ、諦めたくない。一時も無駄にしたくない」

手は太ももの上で動きを止め、指先で鼠径部をなぞるだけだった。そこから先へ進むのを躊躇っているように。

「ずるいです。そこまで言われて私が断れるわけがありません」

実際、すでに一線は越えてしまった。この一度きりで終わりにするかどうかを私に委ねると言っておきながら、私が欲しいと訴える。こんな状況で断れば、私のほうが体目当てみたいに思えてくる。

「いつもこんな風に情に訴えて女性を口説くんですか?」

アドルファスさんに「あなたが欲しい」と誘われたら、殆どの女性はコロッとほだされてしまうだろう。

「主導権は女性にあります。望まない相手を無理にどうこうはしません。今までも向こうが誘いをかけ、それに乗っただけ。それが真実です」
「女性から…ここではそれが普通なのですか?」
「場合によります。成人しているなら、それは双方の責任です。しかし男でも女でも同意なく関係を迫ったら、それは罪になります」

つまりは強姦罪はどちらにも平等に適用される。女性だけが立場が弱いわけではない。
しかもどちらかと言えば女性の方が積極的のようだ。

「それで、アドルファスさんはいつも女性から誘われてきたんですか?」
「まあ、相手が思わせぶりな態度でくれば、私も男として無視はできませんでしたから。その分野でも才能があったと自負しています」

確かに場数はこなしてきた感は否めない。

「けれど、私がこうして請うのは、後にも先にもあなただけです」

アイスブルーの瞳をキラキラさせて間近にそう囁かれては、低い私の防波堤は簡単に決壊した。

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