異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

93 流れた涙

「ですが聖女の力は…」
「しっ」

アドルファスさんの唇に人差し指を当てて言葉を封じる。

「聖女の力を私的に求めてはいけない。そう言いたいんでしょ」

言葉を封じられ、彼は無言で頷く。

「でも私はまだ正式に聖女と認められたわけじゃない。だからその主張は通らないわ」

『判定の玉』は未だ修復されていない。数日の内に修復できると聞いているが、修復に必要な魔力を注ぎ続けるのは意外と骨が折れるらしい。

「だから私が浄化の力を使っても、構わないでしょ」
「君には適わないな」

私の屁理屈にアドルファスさんは苦笑する。

「では、よろしくお願いします」

ただ、そう言われても私は具体的にどうしたらいいかわからない。
聖女の力を開眼するため、財前さんは潔斎の儀を行った。それにより彼女は力を使えるようになった。
でも私はまだその方法を知らない。

「ユイナ?」

少し考えて私は彼の頬を両手で包み、唇を重ねた。

「ん・・」

力を注ぎ込むイメージを浮かべて息を吹き込む。
私が注ぎ込んだ力で彼の傷が癒える姿を思い浮かべ、開いた唇の間に舌を滑り込ませると、彼もそれに応えて舌を絡めてきた。

体が次第に熱を帯びてくるのを感じる。ただそれは興奮しているせいか、何か不思議な力が作用しているのかわからない。

ピクリとシーツの上に力なく乗せられていた彼の左手が動いた気がした。

「こんな治療なら、いつでも喜んで」

二人の唇の間に透明な糸が引く。

「どうですか?」

力を発揮できたのかわからず、様子を尋ねる。気のせいか頬の痣の色が薄くなった気がする。

「幸せすぎてどうにかなりそうだ」
「そんなことを聞いているのでは・・」
「わかっています。本当に、あなたにキスされて男として喜んでいるだけでなく、不思議と体に重くのし掛っていた重圧が消えた気がします」
「そう。だったらいいけど・・」

それから私は指が枝のようになった左腕を持ち上げた。

「少しは動くの?」
「指だけなら」

そう言って彼が人差し指と中指を動かす。とてもゆっくりと。

「でもまるで力が入らない。肩から先はまるで鉛のようだ」
「じゃあ、その指で、私を気持ちよく出来る?」
「え?」
「右手は添えるだけ。その左手で私に触れて私を悦ばせて」
「・・・ユイナ」
「今からリハビリを始めます」
「りは?」
「正式にはリハビリテーションと言います。本来あるべき状態への回復。実際はきちんと計画を立てて、運動療法などで機能を回復させるのですが、浄化と治癒を使って似たような効果を目指します」

驚くアイスブルーの瞳を見つめながら、私は服を脱ぎ下着だけになる。それから力のない左手を持って一本一本に唇を寄せた。
その間も視線は彼に絡めたまま、舌を這わせる。次第に指に色が戻ってきて膨らみを帯びる。それに合わせて彼の瞳の色も深みを増していく。

充分に濡れたところでその手を下着の上から胸に当てた。

小枝のようだった指が胸の膨らみに沈み込む。

「感触はあるの?」

動かないうえに、もしかしたら触感もないかもしれない。

「柔らかくて、温かい。君を感じる」

指が更に胸に食い込む。親指が胸の中心を押し、ゆっくりと指の腹で先端を転がす。

「リハ・・というのは。こんなに楽しいものなのか? 君のいた世界は凄いな」

彼の息も次第に上がり、胸が大きく上下し熱い息が吐き出される。

「まさか、これは私の考えた、あなた専用のものよ」
「私だけの? それはますます興奮する」

右手で私の腰を抱き、自分の方に引き寄せる。同時に胸に触れる左手がぐっと食い込んだ。

「もっと力を込めて、まだまだ足りない」
「ああ、わかっている。わかっているよ。でも・・」

アドルファスさんが苦しそうに顔を歪める。額にうっすらと汗が浮き出て、彼が努力しているのがわかる。
その力を込めて結ばれた唇に、再び唇を重ねる。ふっと力が緩み再び深い口づけを交わしあった。

どうしてこの温もりを手放せると思ったんだろう。

私の細胞が、この人でないと駄目だと言っているのに。

「ユイナ・・」

切なげな声で彼が私の名前を呼ぶ。「唯奈」と「ユイナ」。同じ名前だけど、違う。

「アドルファス」

その時私は、彼の目から初めて涙が溢れるのを見た。

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