幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「されてない! 大丈夫。貴晴さんが来てくれたから」

「危なかったってことか。 やっぱり、1度戻らないでドアを壊せばよかった」

「強行突破すぎ」

「あんなところ、無くせばいいんだ。どうせ物置なんだから。今度整理整頓して、封鎖する」

「鍵はもう壊しちゃったしね」

私は苦笑いした。
バキッ、ゴキって、完全にアウトな音がしたもん。

「『故障中』って張り紙してきた」

貴晴さんが手の中のマグをそっと奪って、ローテーブルに置いた。

彼の纏う空気が、少しだけ緊張する。

私は瞼を閉じて、その唇を受け止めた。

長い。存在を確かめるような、丁寧で優しいキスだ。

ソファに優しく倒され、2度目のキスは一瞬触れるだけ。

思わず、終わり?というような視線で彼を見上げてしまう。

「…今日は終わり。 男の事情。普段そういう気を起こさないように、何も用意してないから」

長い足を余らせて、貴晴さんは体を起こしてソファに背をもたれる。
私はその隣に並び、肩をくっつけた。

「私、大事にされてるね」

「当たり前だ」

「ちょっとくらい、羽目を外してもいいのに」

「煽るな、バカ」

大切に扱われている実感が、じんわりと広がって暖かい。

好きな人が好きだと、私だけを見てくれる未来が、こんなにも幸せだなんて初めて知った。

穏やかな夜は、静かに更けていく。



< 99 / 126 >

この作品をシェア

pagetop