逆ハーレム戦隊 シャドウファイブ

2 歓迎会

 レッドシャドウこと田中赤斗とその両親が経営する、『イタリアントマト』は今日は定休日で、シャドウファイブの貸し切りだ。次々と料理が運ばれてきた。
魚介類がたっぷり入ったサラダと真っ赤なトマトにモッツァレラチーズが乗せられたサラダに続き、シンプルなペペロンチーノとラザニア、ほうれん草のたっぷりのピザ、そしてティラミス。

「うわあ! すっごい!」

私は目を丸くし、眺めていると「ごめんね。店、休みだから簡単なものしかなくて」と済まなさそうにでも爽やかに赤斗さんが言う。

「いえっ! すごいです! ほんとはずっとここで食事したかったんですけど、やっと叶った」
「ありがと」

優しく微笑む赤斗さんにどきっとしてしまう。この『イタリアントマト』は美味しい料理とこのイケメンの赤斗さんが評判のお店で連日混んでいる。仕事をやめる前、ランチに来たくても並んでいるとお昼休みは終わってしまうし、来ると臨時休業だったりした。他のシャドウファイブのメンバーのお店も同じく流行っていて、やっぱり来ると閉まっていて、この商店街のお店とは縁がないんだと思っていた。

「じゃあ、まず乾杯しようか」
「いいね」
「おう」
「新しいメンバーに!」
「新ピンクシャドウ誕生に!」
「乾杯!」
「か、乾杯」

ちょっと冷静になると、なんでここにいるのかなあという気がしないでもないが、もう今更止めますとは言いにくい。
ため息をこっそりついてワイングラスを眺める。揺れる赤ワインは綺麗なルビー色で赤斗さんに良く似合っている。

「どんどん食べてね」
「は、はい!」

スーパーで買って食べるモッツァレラチーズとは比較にならないチーズとトマトの味の濃厚さにジーンとしてるとイエローシャドウこと井上黄雅が話しかけてくる。

「ねえねえ。桃香ちゃん。前の仕事は何やってたの? なんでやめちゃった?」
「え、えっと、あのぉ」
「ん?」

黄雅さんは屈託なくまっすぐな綺麗な目で見つめてくる。サラサラした髪はキューティクルがちゃんとあって、天使の輪がまるでクラウンみたいだ。辞めた理由が実は失恋だなんて情けなくてちょっと言い辛いなと思っているとブルーシャドウこと山本青音が「いいじゃん、なんでも」とぽつりとつぶやく。全く人ごとに関心を寄せそうにない冷たい雰囲気なのに、助け舟を出してくれたようで、青音さんに対して好感度が凄く上がる。おかげでなんだか話したくなり、すっきり忘れて前向きになろうという気が沸いてきた。

「えーっと、失恋しちゃったんです。同じ会社の彼とお付き合い3年だったんですけど」
「え。3年くらいだと結婚しそうだよねえ」

ホワイトシャドウこと松本白亜は未知の謎に出会ったような顔をする。確かに彼、中村達矢とはそろそろ結婚で、お互いの両親にも挨拶しようという話にはなっていた。しかし、高校時代から彼にずっと憧れていて大学を卒業してこの会社に追いかけてきたという積極的な後輩、吉田麻衣の出現によって私たちの関係は崩れていく。

「まあ、そんなこと言われたら悪い気はしないだろうけど、桃香ちゃんと結婚するつもりだったんでしょ?」
「ええ、そうなんですけど」
「なんでバシッと断らないかなあ」
「それが……。前にキラキラ怪人が現れたじゃないですか」
「ああ、うん。あいつもなかなか強敵だったよなあ」
「眩しいったらなかったよな」
もう怪人の出現も、さっき倒したスライミー怪人で5体目だ。


以前、キラキラ怪人が現れたときだった。後輩の吉田麻衣が帰宅途中、その怪人に襲われそうになったと会社でみんなと話していた。

「もう、すっごい怖かったんです。目の前がすっごい眩しくって、もうちょっとで麻衣連れていかれそうになっちゃって」

話にしか聞いていないがキラキラ怪人は全身を鏡や反射板やスパンコールで埋め尽くされていて眩しく直視できないらしい。
怪人の出現により、社会人ではあるがなるべく集団で帰宅するようにと会社からお達しが出る。彼と後輩は同じ方向に家があった。
キラキラ怪人が倒されるまでに2週間。その間にはもう中村達也と吉田麻衣には気持ちを通じ合うに十分な時間があったようだ。


「ああー。俺たちがあいつ倒すのに時間かけすぎちゃったなあ」
「ほんと、ごめん! 桃香ちゃん、俺たちのせいだよねえ」
「いえっ、そ、そんな。誰のせいでもないですよ。ちょっと私がぼんやりしてて。安心しきってたんだと思います。結婚すると思って」

そう。自分もいけなかった。達矢が最初、麻衣と一緒に帰ることになった時、私にも一緒に帰ろうと話してきたのに、まったく反対方向であったため、断ってしまったのだ。まさか麻衣が達也を好きだったなんてこれっぽっちも気づかなかったし、単純に後輩を無事送ってねと笑顔で見送っていた。

「桃香ちゃんって、ちょっとそういうことに疎そうだなあ」

童顔で少年のようなのに白亜さんは大人っぽいことを言い出す。

「そうですね。私、ちょっとのろいんですよね」
「だめだよ? 今度はちゃんと狙っていかないと。形が決まってたってさ、奪いにかかる子はがつがつ来るからね」
「は、はい」

白亜さんは美容師で何人もの女性を相手にしているため、そういう事がよくわかるのだという。しかも、彼氏がいても白亜さんにアプローチをしてくる女性も多数とか。

「白亜はモテモテだからなあ」

にやにやする黄雅さんに「好みじゃないタイプにもててばっかだよー」と言い、グリーンシャドウこと高橋緑丸に向けて「緑丸のほうがもててるよな」と話を振る。
緑丸さんは静かに「そうかな」と微笑んだ。
大柄で物静かでまるで大木のようなリラックスを与えてくれるような人で、そばにいるとほっとする。
シャドウファイブのメンバーはみんなモテモテだろうに恋人もいないようで、世界の平和を守ってくれている。私も失恋でへこんでられないなと頑張ろうと思い、ふっと素朴な疑問がわき、質問した。

「どうして皆さんはシャドウファイブになったんですか? 設備とか武器とかとても素人で用意できるものじゃないですよねえ」

スライミー怪人を倒した強力なウォッシャー液は、とても市販のものじゃ無理だと思う。さらに環境に何の影響も与えないという素晴らしいエコアイテムだ。キラキラ怪人を倒した武器はまたまた強力な煙幕だったらしい。
5人は顔を見合わせる。なにか重大な秘密に触れるような気がして私は緊張した。

「俺たちはみんなここで生まれ育って小さなころから気が合っててさ。将来の夢はもちろんヒーローだったんだ。」

シャドウファイブのメンバーはみんな成績もよく、身体能力も高いいわゆる神童で、外国の有名大学を卒業したのち、某国で研究開発をしていた。

「みんな揃ってですか??」
「うん。気が良く合ってたんだよ。俺たち6人」
「6?」
「あ……」

黄雅さんがしまったという顔をする。赤斗さんが肩を叩き続きを話す。

「そう6人だったんだ。でも研究所で大爆発があってね……」
「一番のリーダーだった奴が……」

はっきり言わないがとろい私にもわかる。きっとその事故で亡くなったのだ。

「しかも色々裏があってね。もう嫌になって、みんなで地元に帰って家業を継ごうってことにしたんだ」
「しばらくはそのまま店の仕事してたんだけどさ。半年くらいすると怪人が現れ始めたんだ」
「ああ。あの、すっごい臭いって言われてた怪人ですよね」
「うん。腐臭マンね。あれはマジでやばかったよなー。臭い」
「そうそう。生ごみときつい香水が混じったようなさあ」

初めて現れた怪人は『腐臭マン』と呼ばれ、町の至る所に悪臭を残し、人々に吐き気を催した。

「あれってどうやってやっつけたんですか?」

匂いを思い出したようで、白亜さんは口を半開きにして遠くを見つめるような虚ろな表情を見せる。猫のフレーメン反応みたいだ。
赤斗さんがふうっとため息をついて「脱臭剤を開発したんだ」とワインを一口飲む。

「そのときはまだシャドウファイブは結成してなかったから、そのまま現れたところに行って、みんなで囲んだんだけど」

その時の開発された脱臭剤は、野球ボールくらいの大きさのもので、投げつけると、脱臭し、更には冷却するというすごい武器で、腐臭マンを見事、匂いの元を断ち、凍らせ、粉々にしたということだ。

「すごいんだー」

私は感心してみんなを見まわす。

「そうだ。ピンクの衣装渡しておくから一応、いつでも服の下に着ておいて。洗い替えに3着渡しておくから」
「え? いつも着るんですか?」

確かにいざっていう時着替えてる暇はないかもしれないけど、ちょっと常に着るのって夏場とかどうなんだろう。うーんと心配していると黄雅さんが衣装について説明をしてくれた。

「これはさ、N〇S〇開発のパワードスーツを更に改良したもので、打撃にももちろん強いけど、耐熱耐冷保湿撥水放熱――」

とにかく着ていることを忘れるくらいナチュラルでしかも強い服らしい。ただ内側の強度が強くなかったせいで、ピンクの衣装は胸が破れてしまったとのことだ。

「あんな極端なことがなければ平気だからね」
「俺が詰めすぎたんじゃないぞ。みんながピンクは女ってわかりやすくしろっていうからさー」
「まあまあ。おかげで桃香ちゃんが入ってくれたことだし」
「そうだな。また乾杯しようぜー」
「おーう!」

ワインを一人一本程度空けてしまい、すっかり出来上がると私も気分が良くなり「ピンクシャドウとしてがんばります!」と張り切って宣言する。
何度も世界平和について乾杯してから、冷静な青音さんがタクシーを呼んでくれ私は帰宅した。

1人暮らしの狭いアパートに帰るとふうっと酔いがさめ、これは夢かなと思ったが、手に持っている大きな紙袋の中のピンクシャドウの衣装がこれは現実だと言っている。

「私も正義の味方かあー。がんばろ」

明日からメンバーのお店を一週間ごと交代で手伝うことになっている。いつまた怪人が現れるか分からないし、どうなるか分からないけど、素敵な5人組に会えただけで、なんだか人生が大きく変わりそうな予感がする。いつの間にか失恋の痛みは消えていて、新しい明日への希望が胸を膨らませていた。
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