逆ハーレム戦隊 シャドウファイブ

8 レモントイズ

 しっとりとしたアンティークショップから今度はイエローシャドウの井上黄雅さんのおもちゃ屋『レモントイズ』でバイトすることになる。お着物から黄色い大きなレモンが描かれたトレーナーとジーンズが制服のようだ。
簡単にお店の中を案内される。個人店なのでそれほど大きくはなく、流行り物のおもちゃもどうやら少ない。子供の知育玩具に力を入れているらしく、訪れる客層はなんだかきちんとした服装の大人が多い。

「なんだか真面目なおもちゃ屋さんなんですねえ」

率直な感想を述べると黄雅さんは優雅な笑顔を見せる。

「おもちゃを子供のその場の娯楽にはしたくないんだ。勿論、面白くないとおもちゃじゃないけどね」

音が出るおもちゃも、小さいが本格的で木琴を叩くととても良い音がする。

「あれ? こっちとこっち音が違う」
「良く気付いたね。こっちはマリンバだけど、こっちはシロフォン。音板の裏が違ったりするんだ」
「へえー」

もう一度叩いて聞き比べるとやっぱり違っている。他にも虹色のおもちゃや、顔のない人形などもあり思わずじーっと見つめてしまう。

「なんだか遊ばなくてもずっと置いておきたくなるものばかりですね」
「うん。きちんと作品として作られているものが多いからね。それに出来れば壊れても修理して長く使ってほしい。うちは修理もやってるんだ」

黄雅さんのおもちゃ愛に感心し私も一つ一つ大事にするようにおもちゃを眺める。

「まあ、この店も青音んち同様そんなに忙しくないんだけど、一応桃ちゃんの武器を考えておこうと思ってさ」
「武器、ですか」
「うん。戦わせるつもりはないんだけど、恰好と、何かの役に立つかもって」

確かに何か持っている方が格好いいかな。メンバーみんなそれぞれ武器を持っている。レッドシャドウは銃。ブルーシャドウは刀。イエローシャドウは鞭。元ピンクシャドウで今のホワイトシャドウはブーメラン。

「そういえばグリーンシャドウは武器ないんですね」
「ああ、緑丸は体術だから武器ないの」
「なるほどー」

グリーンシャドウは肉体が武器なのだ。

「何か持ちたいものとかある? 運動は何が得意だった?」
「え、運動ですかあ」

走るのもそんなに早くなかったし、体育の成績は悪くもなかったけど目立つものもなかった。

「部活はなにしてた?」
「ああ、一応テニス部でした。そんなにうまくなかったけど」

打ち返すのは良いがちゃんとコートに入らなかった。そういえば飛んでくる玉を打つことは得意だったが正確さはなく、バッティングセンターに行くと空振りはないがほとんどファールなのだ。

「なるほどねえ。でも来るものを打てるなら身を守れることに長けてるってことだな。ちょっと何か考えておくよ」
「はい、お願いします」

私の武器かあ。ちょっと格好良くなるのかなと思うと少し嬉しい。

「じゃ、お客さんに説明するおもちゃの内容と取り扱いを今日は覚えてくれるかな」
「わかりました」

間隔を十分に開けて1つ1つ置かれたおもちゃたちは大量生産でもなく個々の作品のようで、雑多な感じのないギャラリーのようだ。ちょっと青音さんのお店の子供ヴァージョンのような気もする。骨董に囲まれているのも悪くなかったが、ちょっと緊張する。ここは明るくて楽しいリラックスできる雰囲気だ。
それでもどちらのも店でも作品を大切に取り扱うことを教わって、私自身もなんだか心にゆとりが生まれている実感ある。
四角い小さなオルゴールのねじをそっと回し、綺麗な音を聴いていると、黄雅さんがやってきて「ちょっとお客もいないし、下で練習してみようか」と言い始めた。

「練習?」
「うん。地下が武器の練習場になっているんだ。ちょっと桃ちゃんの身体能力を確認しておくよ」
「能力、ですか」

何かあればいいんだけど。

「そんなに構えなくていいからね。遊びだと思って」
「は、はい!」

サラッとした髪が風に揺れて、端正な顔で見せる笑顔はとてもノーブルだ。トレーナーとジーンズなのに。黄雅さんの乗り物はバイクじゃなくて白馬の方がいいんじゃないだろうかと真剣に思う。
 店の奥から地下室にむかう。こんな商店街にこんな場所があるなんて。
薄暗い、コンクリートがむき出しになった、店よりも広いフロアに射撃、ダーツ、卓球が出来るところがあり、畳敷きのところもある。

「なんか不思議な場所ですね」
「レッドはそこで射撃の練習よくしてるんだ。そこの畳ではブルーが居合の練習してる」
「はあ」

銃刀法は大丈夫なんだろうか。

「打ち返すの得意って言ってたよね」
「得意、とは言いにくいですけど……」
「ちょっと一緒に卓球してみようか」
「えっ。私の返す玉、ちゃんと入らないんですよ」
「いいからいいから。はい、ラケット」
「あ、はあ」

ラケットを手渡され、私は卓球台の前に立ち、黄雅さんに向かい合う。

「じゃあ、こっちから打つから、返してみて」
「はい」

一応、腰を低く落とし、玉をじっと眺めるが、黄雅さんのフォームの美しさに思わず見入ってしまいそうだ。

「あ、あぶなっ」

ぼんやりしていると玉を逃すところだったが、ゆっくり打ってくれたおかげで何とか拾って打ち上げた。勿論ポーンと大きく放物線を描き、コートには入らない。

「それっ」

それを黄雅さんはまた優雅に打ち返す。ラインぎりぎりのところに玉が落ち、それを拾う。

「えいっ!」
「よしっ」

私がどんな変な球を打っても彼は拾って、正確にしかも優雅に打ち返す。カツーンコツーンと乾いた高い音が地下室に響く。こんなにラリーが続くなんて初めて。

「いいよ、なかなか」
「いえっ! 黄雅さんが全部拾ってくれるおかげです」

黄雅さんが打ち返した玉を左手で受け取り、ラケットを置いて、私の方にやってきた。

「フォームは良いんだ。ここを、もうちょっとこうすると」

私の背中から彼は腕を回し、ラケットを持つ右手の手首をつかむ。彼の左手は私の腰に回されていて、私の後頭部に彼の鎖骨を感じる。凄く近い。まるで後ろから抱きしめられているようで、緊張し、また心臓が強く打ち出す。少し汗をかいているから匂ったらどうしよう。
一緒に何度かラケットを振る。その度に彼のサラサラの髪が私の頬をかすめくすぐる。生地が厚いトレーナーだけど彼の体温が伝わってきて背中が温かい。大きな手がしっかりと私の手首と腰をホールドしている。

「こうやって振ってごらん」
「は、は、はい」

腰を少し低く落とされ、思わずお尻を突き出してしまい、彼の膝にこすれた。

「あっ」
「ん? 腰が引け過ぎかな」

恰好が恥ずかしいと思っていると黄雅さんはスッと私の腰を抱えまっすぐ立ち上がらせる。

「随分良くなったよ。また暇があれば練習しよう」

端正な顔で綺麗な笑顔を見せる彼に私の膝はガクガクしてしまった。

「ん? ちょっとやりすぎたかな」
「あ、だ、大丈夫です」

確かに久しぶりの運動で足をよく使ったが、このガクガクはまた別のもののような気がする。そんな私の手をスマートにとり白い歯を見せ黄雅さんが階段を上がる。卓球をしていたが、まるでダンスを踊った後のような気分になっていた。
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