囚われのシンデレラ【完結】


「まず、君の母親に挨拶に行く。病院を転院することを説明するときに、俺もいた方がいいだろう。その際、結婚の挨拶をする」

事務連絡を告げるような口調で私にそう言った。

「――すみません、それで一つお願いがあるんですが」
「なんだ?」

母に余計な心配はさせたくない。私が、心から望んだ幸せになれる結婚だと信じさせたいのだ。

「以前から交際していたことにしていただけませんか? 有名な先生に手術してもらえることになった上に娘が突然結婚するなんて言ったら、不安になると思うんです。だから……」

西園寺さんの返事を緊張しながら待つ。

「分かった。ただでさえ病で不安だろう。せめて、安心させてやれるようにうまく言うよ」
「ありがとうございます」

私に背を向けた西園寺さんが、少しの間の後、息を吐く。

「――式は、どうしたい?」
「私は……西園寺さんの事情で決めていただいて構いません」

有名なホテルグループの御曹司ともなると、結婚というもの自体、既に個人的なものではなくなるのではないのか――。

ありとあらゆることに、疑問ばかりが付き纏う。この先、一つずつ知って行きい。でも、まずは、母の手術だ。

「分かった。式については、こちらの都合で決めさせてもらう。明日、病院に行くから、主治医にアポを取っておいてくれ。俺の方からも事情は説明する」
「分かりました。よろしくお願いします」

他人のような遠いその背中を見送る。結婚する人だなんてまるで想像できない。

そこには西園寺さんの感情は存在していない――。

態度も、視線も、声も。何もかもが私にそう訴えて来る。

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