ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。




俺もこんなふうに、自分が抱えたものをサラッと誰かに伝えられたらいいのに。


話しづらい過去や、知られたくないこと。

今の北條みたいに伝えることができたのなら、俺はもっと器用にいろんなものを回せたんだろう。



「実はその人、車椅子で生活してたんだよ。しょっちゅうヘルパーさんも来たりしてて。
出会ったばかりの頃はそうじゃなかったけど、でも……よく躓いたり転んだりしてた」


「……、」


「ほんと、心配ってより違和感があるくらいな」



ドクン、ドクン。

心臓が大きく何度も何度も苦しいくらいに叩いてくる。


それをわざわざ俺に言ってきたこと、思わずぎゅっと握ったこぶしには汗。



「気づけば団地からいなくなってて、俺も引っ越して。それから数年して俺が中2のときだったかな。
彼女はずっとALSっていう難病を患ってて、…亡くなったことを知った」


「…そうなんだ」



いつもどおり無表情に、無気力に、返せれていただろうか。

声は、震えていなかっただろうか。



「とくに最近。おまえ見てると…重なるんだよ」



だからいつも助けてくれたのか。

文化祭のときだって、体育の授業のときだって。

周りに不審がられないように気をつかってもくれて、俺だって違和感があった。



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