ここは君が夢みた、ふたりだけの世界。
「わあ……!きれいっ!」
目の前いっぱいに広がる海。
まっすぐ先には月と星が輝いて、紺色をした水面に反射してはゆらゆら揺れていた。
まるでたくさんのクラゲが泳いでいるみたいにも見える光景は、まさに幻想的という言葉がしっくりくる。
「7階テラスは景色がいいって、一般客が言ってたの聞いたんだ」
このホテルの隠れた夜景スポットでもあるのだろう。
ちょうど私たちが入ってきたとき、入れ替わるようにホテル内へ戻ってくるカップルさんとすれ違った。
「千隼くんは先生に怒られなかった…?」
「うん。許可は取ってあるから」
彼は担任の上地先生と同室だった。
クラスメイトたちには余り物だからと説明されていて、「浅倉かわいそー!」なんて笑われていたけれど。
そうじゃないってことは私だけが知っている。
上地先生もきっと彼の病気のことは知っていて、それは先生たちみんな。
千隼くんの意見を尊重しつつ、できる限りのサポートをしているんだ。
「李衣、そこ座ろう」
景色が一望できるベンチに誘導されながら、いつの間にか購入していたらしいペットボトルが渡された。