一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
三分間の蜜と罰



翌日、クロエさんは打ち合わせに出て、俺は荷ほどきをした。
と言っても、クローゼットに服をかけて、少し荷物を整理するだけですぐに終わった。

クロエさんは契約内容以外の事はしないで良い、と言う。
今朝の朝食も、クロエさんが前日から仕込んだフレンチトーストを焼き、無花果(いちじく)とクリームチーズのサラダにトマトの冷製スープまで用意してくれた。
これでは心苦しいと言ったら、学校の展示会の準備とか自分の事をしていて構わない、と返された。
専門学校に通っていると話した事は、ちゃんと聞いていたようだ。
確かに展示会の作品制作は夏休みの間に進めたいと思っていた。

クロエさんの言葉に甘えて、PCの電源を入れると嫌な音を立て、のろのろと起動し始めた。
くるくるとマークが回る。
最近PCの調子が悪い気はしていたけれど、気のせいだと言い聞かせて見て見ぬふりをしていた。

人が関わる事については気を張るけれど、自分にだけ影響する事だとどうも後回しにしてしまう。
そのせいか茉莉香から、アオイはたまに抜けている、と言われた。
確かにそうかもしれない。
自分を後回しにして、人には使える力をすべて注ごうとする。
そしてどこかで(ほころ)びが出る。

でもそのギャップが良いよ、と茉莉香は笑う。

じゃあ、あんな男じゃなくて俺を好きになってよ。



PCは、まだ完全に立ち上がらない。
この待ってる時間が最高にイライラする。
くるくるくるくる回っているものを見ると、どうしてこんなに不安や苛立ちに駆られるんだろう。
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