一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
クロエさんは瑤子さんをもてなす準備をすべて整えてから撮影へ向かった。
切ってお皿にのせるだけだろうし、自分がやると言ったけれど断られた。
クロエさんは家事や手伝いを、絶対に断る。
人に任せたくない完璧主義なのか、自分が信用されていないのか。


瑤子さんをリビングに通すと、ちぃちゃんがすぐにやって来た。

「あら、ちぃちゃーん!」

ちぃちゃんは瑤子さんへと一直線に向かった。

「私、ちぃちゃんに好かれるために高級猫缶を貢ぎまくったの。
アオイちゃんは、すぐにちぃちゃんに懐かれたんでしょ?」

「そういえば、クロエさんに珍しいって言われました」

どうして瑤子さんがそれを知っているんだろう。
クロエさんが瑤子さんに話したとしか考えられない。

瑤子さんが自分と話したいと言ったのは、あずささんが瑤子さんに俺の事を話したからだと思っていた。
でも、クロエさんも瑤子さんに話していたのか。
なんだか意外だった。



和菓子が好きな瑤子さんの為に、クロエさんが用意した夜空みたいな色をした羊羹(ようかん)とお茶を出すと、瑤子さんは声を上げた。

「更に上達したわね~。
良い色だわ」

「え……これってクロエさんが作ったんですか?」

「そうよ。
本当、あの子って器用というか、なんというか」

食事だけじゃなく、和菓子まで作れるとは。
自分は人生で一回も、羊羹を作ろうと考えた事はなかった。
羊羹は作るものではなく、買うもの、というカテゴリーだった。
昨日は朝から夜まで撮影に出ていたのに、いつ作ったんだろう。
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