一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
身体が敏感になっていくのに対して、頭の中は溶けているんじゃないかと思うくらい、ぼぉっとしている。
もう声を抑えることは出来なくなっていた。
首には、熱を帯びたクロエさんの息が絡まっていく。


「―――カイト」


自分の声に混じって、クロエさんの(かす)かな声が聞こえた。

消えそうな声で、確かにカイトと言った。


頭の中が少しだけ理性を取り戻しそうになった時、外から姫野さんの声がした。

一瞬で身体はヒヤリとし、熱は急速に冷めていく。

クロエさんは手を止めると何事もなかったように立ち上がり、手を差し出した。
その手を取り、おぼつかない足で立ち上がる。

クロエさんは哀しい眼をして一度だけ髪を撫でると、すぐに離れを後にした。

乱れた髪や服を整えていると、やっぱり何かいけない事をしている気がして胸が渦巻いた。



離れを出ると、自分達を探しに来た姫野さんがいた。

「クロエくん、いったい何本吸ってるの。
アオイちゃんまで巻き込んじゃダメでしょ」

そう言っている顔は、まったく怒っていなかった。





なんとなく、家の中に向かう途中で聞いてみた。

「クロエさんは、グラジオラスの花言葉って知ってますか?」

「……紫なら、情熱的な恋」


冷たい眼をしてクロエさんは答えた。
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