一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
姫野さんの家は少しロックテイストで、棚には大量のCDや小説が収納されている。
グレーの壁にはマウンテンバイクが掛けられ、木目調の床には黒と赤のエレキベースが2本立てられていた。

「ベース、やるんですね」

「律くんに巻き込まれて始めたんだよね。
なんだかんだ言って、律くんのグイグイしたところって好き。
巻き込まれてみるかーって思っちゃう」

姫野さんは今日もはっきりと、笑顔で好きだと言う。
すごく素直な人なんだろう。

「さて、そろそろPCの方やろうか。
アオイちゃんのPC貸してくれる?
僕のはもう立ち上がってるから、好きに使っちゃって大丈夫」

姫野さんのPCデスクに座ると、デスクトップの背景はミントチョコのアイスクリームの画像だった。

「もしかしてミントチョコ、好きなんですか?」

「大好き。クロエくんにはミントチョコはどうしても無理って言われたけど。
アオイちゃんは?」

「好きです。自分の周りもミントチョコは無理って言う人が多いですね」

歯磨きした直後のチョコか、チョコを食べた直後の歯磨きの味としか思えない。
茉莉香がそう言っていたのを思い出す。

こんな風に、何かの拍子に茉莉香がチラつく。
長年一緒にいたから、茉莉香とのエピソードがまったくない事の方が少ないのかもしれない。
昨日も、茉莉香はバターチキンカレーが好きだった事を思い出した。
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