目の前の幸せから逃げないで

「そろそろ お昼にしようか。」

という 鈴香の声で

「もう そんな時間なの?」

と私は 顔を上げて 鈴香達を見た。


「ハタ君、お昼、どうする?」

「外で 食べて来ても いいですか?」

「もちろん。ゆっくりしてきて いいからね。」

「はい。じゃ、行ってきます。」


光毅は そう言って 事務所を 出て行った。


手作りのお弁当を 温める鈴香の横で、私は コーヒーを淹れる。

「どう?ハタ君、続きそう?」

「大丈夫じゃない?」

レンジが ピーッと鳴って お弁当を 取り出す鈴香。

「もっと 詳しく 教えてよ。」


私は 朝、買ってきた おにぎりを 開きながら 聞く。

「由紀乃、近くで 見ていたじゃない。」

「最初はね。だんだん 自分の仕事に 夢中になっちゃったから。よく わからないわ。」


「おとなしい子だけど、パソコンの知識は あるし。覚えも 悪くないから。まぁ、本人次第だけど。飽きなければ、大丈夫だと思う。」

「飽きるって…仕事よ?」

「でも、若い子なんて そんなものじゃないの?」

「そうなの?」

「そうよ。特に バイトなんて。同年代の子との 出会いとか、そういうことが 目的じゃないの?」

「そういう子も いると思うけど。ハタ君は 地味で おとなしそうだから。そうじゃないと思って 採用したのよ。」


「まあ、少し様子みないと わかんないけどね。続いてくれることを 期待するしかないね。」

「私、人を見る目が ないからなぁ。」

「フフッ。でも由紀乃、仕事のセンスは あるじゃない。」

「鈴香―。それ、フォローに なってないよ。」

膨れた顔で 言い返す私を、

鈴香は クスクス笑いながら 見つめた。


人を見る目が 無いわけじゃない。

鈴香とだって 長く付き合えているし。


商品発送のために 採用した パートの人達も みんな よくやってくれる。

ただ、男性を 見る目には 自信がないけど。






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