スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
「恋人に嫉妬くらいしてもいいだろ。彼、少し手強そうだし」
「そんなことないよ。付き合ってたのも三年も前の話だし、今は何もないから」
「来週飲み会なんだろ?」
「えっ!」

 あとで話そうと思っていた話をされて、有紗は思わず声をあげる。やはり昼食時、慶汰もそばにいて会話を聞いていたような口ぶりだ。

「それは構わないさ、同期は大事にしたほうがいいから。マーキングくらいはさせてもらうけど」

 言いながらも、慶汰本人はちっとも不機嫌そうではない。言葉では嫉妬しているように見せ、扇情的な表情からはいつになく余裕を感じ取れる。

 彼の矛盾した様子は、おそらく嫉妬というプレイの一環なんだろうと有紗はぼんやりと思った。その余裕がまた悔しくて、表情を引き締める。

「くだらないこと言ってないで、仕事してください、鶴生さん」
「はは、なんだ改まって」
「今は仕事中ですから。私が公私混同するの大嫌いだって、知ってますよね」
「……ああ、そうだったな。邪魔して悪い。それじゃあ頑張ってね、柏野さん」

 有紗に咎められ、慶汰は叱られた子供のように肩を竦める。すぐにいつもの上司の顔に戻ると、小会議室をあとにした。

「……なんなのよ、もう」

 平常心を保ちながらも、有紗は慶汰に口づけられた場所に触れる。

 有紗が職場で彼と接触したくない理由は、公私を混同させたくないことと周りにバレたくないことに加え、もう一つあった。

(これじゃあ仕事に集中できないじゃない)

 紛れもなく、慶汰のことで頭がいっぱいになってしまうから。仕事優先だと豪語しつつも、結局は有紗も乙女なのだ。

 ふるふると熱で浮かされた頬を冷ますと、気合を入れ直してパソコンへ向かい合った。
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