キラリの恋は晴れのち晴れ!

第56話 切ない想い

翼は、なりふり構わなくなってきた父のやり方に不安を覚え、キラリを守るべくこの家から脱出する方法を思い付いた。


翼「母さん!ちょっとお願いがあるんだ。ほんの少しの間だけでいい!少しだけ俺に時間を作ってもらえないかな?」

翼は無謀かもしれないが、母を頼って作戦に踏み切ろうとしていた。


~それから数時間後~


身長の高いやや痩せ型の男が白いパーカーを深く被り翼の家にやって来た。
その男はインターホンを押して、程なくして家の中に通された。

それを家の外から見張っている黒服の男達が確認している。

翼の家の作りは、防犯上窓を開け放つことは出来ず、ブラインドのように開く仕組みになっている。
そして唯一外に出入り出来る場所がこのエントランスということになる。
よって、翼の見張りの男達は、この一ヶ所のみを徹底的に監視している。
もし翼が不振な行動を取ればすぐに対処出来る。
そうたかをくくっていた。


それから程なくして、白いパーカーを被った男を家政婦が見送り、また来た道を歩いていった。

見張り役の男が、家政婦の息子か誰かがたずねて来たのかとも思ったのだが、念のためエントランスに向かいインターホンを押して呼び出す。

見張り役「奥様すみません。翼様はいらっしゃいますか?」

母「えぇ居るわよ。どうなさったの?」

見張り役「申し訳ございません、一応確認で翼様のお顔を拝見させていた………」

そう言いかけた瞬間、翼の母がものすごい剣幕で怒りだした。

母「あなた方はこの私でさえそうやって疑うのかしら!?失礼にも程がありますよ!!!」

見張り役の男は普段物静かな翼の母を怒らせてしまったと思い、すぐに引き下がった。

見張り役「も……申し訳ございません……大変失礼致しました……」



こうして見張り役の目を欺いた翼が、急いでキラリのもとへと向かう。



~キラリの家~


キラリは学校から帰って、自分の部屋の机に向かって頬杖をつきながらため息をつく。


翼~………もう一度戻って来てよ………もう寂しくて我慢出来ないよ~………

キラリは過去に翼と一緒にスマホで撮ったツーショット写真を眺めながら心の中で呟く。



~回想~


翼「キラリ、お前の飲んでるジュースってどんな味だ?」

そう言って翼はキラリのグラスに入ったジュースを勝手に手に取って味見をする。

キラリ「あっ!ちょっと!翼それ私のなんだから~!」

と言いながら翼の手から取り上げる。

その勢いでグラスから飛び出した液体がキラリの部屋着に飛び散った。

翼「あーあ~、お前何やってんだよ………」

キラリ「だって~、翼が~………」

翼はすぐにティッシュを取ってキラリの部屋着の汚れた部分を拭き取り始めた。

キラリは両手を左右に拡げてされるがままの状態で翼を見つめている。

キラリ「あ……ありがとう……」

翼「全くドジだなぁ~」

キラリ「だから翼が……」

そう言った時、翼はキラリの胸の辺りについたシミまで拭き始め、キラリは慌ててその手を払った。

キラリ「ちょっと!どこ触ってんのよ!」

と、キラリが赤面しながら翼の顔を見た瞬間、キラリは更なる惨事に気付き

キラリ「あっ………ゴメン………」

と、翼に謝っていた。

翼「キラリ………それは無いだろう………」

それは、キラリが持っていたグラスの中の残りの液体が翼の顔面にぶちまけられ、翼は情けない表情で呆れたようにキラリに言った。

キラリ「いやいやいや、ほんとゴメン………でもさ……ほら………元はと言えば翼が私の胸を勝手に………」

そう言いかけたとき、翼が真剣な眼差しでキラリを見つめ

翼「キラリ………お前結構胸あるんだな………」

キラリ「おっ………お前どさくさに紛れて人の胸の大きさ確かめてんじゃねぇよ!」

翼「いや、確かめなくても十分伝わってきたって……」

キラリは恥ずかしさで蒸気機関車のようにポッポ、ポッポと頭から湯気が出るほど顔が熱くなる。

キラリは立ち上がって翼の首を締めようとしたが、翼はそれを事前に察知していて、キラリが動き出した瞬間にはもう逃げ出していた。

キラリ「翼~!待てぇ~~~!」

と言いながら二人はいつものごとく家中追いかけっこを始めた。


翼………またあの時みたいにいつも笑っていたいよ………

あの時は………あんな幸せがいつまでもあると思ってた………

まさかこんな急に……

翼が居なくなっちゃうなんて思って無かったもん………

後ろから抱き締められた感覚……

頭を優しく撫でられた感覚………

手を繋いで歩いた時の柔らかくて温かい手の感触………

全部全部私の身体に残ってる………

こんなこともあったよね………

翼は身体が弱いから、すぐに高熱を出すとか言って………

熱で汗びっしょりになった時、私が翼の身体を拭いてあげて、翼は熱でうなされてたとき、私の膝枕で朝まで………

私が膝枕してたはずなのに、気付けばいつの間にか翼が私を膝枕してくれてて………

そういう優しさが凄く好きだった……

そして居なくなる少し前だって………




翼「今は………それだけで許してくれ………」

そして翼はキラリの両方のほっぺたに手を当ててキラリの潤んだ瞳を見つめた。

そして次の瞬間


え?翼?


翼はゆっくりとキラリの顔に自分の顔を近づけ、そしてキラリのおでこに優しくキスをした。

キラリは今起きたことが、にわかには信じられないでいた。
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