気付けよ
樹音(じゅね)、頼むっ!」
大学構内の食堂で樹音と向かい合わせに座る俺は、拝むように顔の前で両手を合わせて頼み込む。

「はぁ? 何で私なの?」
樹音は呆れたような顔でそう聞くが、最初から樹音にしか頼む気はなかった。

「勿論ただでとは言わねぇよ」
俺はそんなことを言って、スマホの画面を樹音に見せたが、樹音は見返りなんかなくても聞き入れてくれることをわかっていた。

「えぇっ、取れたの!?」
樹音はスマホを握る俺の手を両手で掴み、穴が空くほど凝視している。
画面に映っているのは、ライブの電子チケットだ。
樹音が好きだと言っていた″キングバッファロー″のライブチケットをやっとのことで手に入れることができたのだ。しかも、ライブはもう来週に迫っている。

「どうする?」
返事は聞くまでもなかったが、俺は尋ねてみる。

「どうするって――そりゃ引き受けるに決まってるじゃん!」
交渉は成立した。

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