あなたに食べられたい。


 どうして泣いてしまったのだろう……。
 
 栞里はすっかり落ち込み、うわの空になりながらテーブルを拭いていた。
 店を再開してから苦しいことも楽しいことも色々とあった。これまでしっかりしなきゃの一念で奮起していたが、ジローの台詞であっさり決壊した。
 ジローは優しかった。
 泣きたきゃ泣けの言葉通り、栞里が泣き止むのをひたすら待ってくれた。帰りも店の前まで送ってくれた。

 私……ジローさんのことが好きなんだ。

 恋愛なんてまともにしたことがなかった。
 そりゃあ、部活の先輩に憧れるとかちょっと仲の良い男友達ぐらいはいたけれど、明確に異性を意識したのは初めてだった。
 これからどんな顔をしてジローと顔を突き合わせばいいのかが、目下の悩みだ。
 どうしよう。悩んでいる間に二時になってしまう。

「麻里、お客さんも引いたしちょっと買い出しに行ってくるね」
「私が行くよ?」
「ううん。たまには私が行く」

 考えあぐねた結果、栞里は敵前逃亡を選んだ。こんなふわふわした状態でジロー相手にまともな接客なんてできっこない。
 麻里に店番を任せると、栞里は買い出しへと出かけた。
 無駄に時間を費やしながらスーパーを回り、銀行に寄り、神社に商売繁盛の祈願までして店へと戻る。

「おかえり。さっきまでジローさんがいたよ」

「そう」

 思惑通りジローと顔を合わせずに済んでホッとした。
 ホッとはしたが、寂しくなったのもまた事実だった。
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