あなたに食べられたい。

 ジローと約束した日曜日になった。
 お気に入りのワンピースにトレンチコートを合わせた栞里はこの上なく緊張していた。
 待ち合わせ場所は槙島スカイタワーの正面ロータリー。日曜とあって会社員はほとんどいなかった。

「待たせたな」

 高そうな車がロータリーに横付けされると、ジローが運転席から颯爽と現れた。
 この日栞里はパーカー以外の服を着ているジローを初めて見た。
 シンプルなTシャツに細身のジャケットを羽織っただけなのに良く似合っている。
 いつもはパーカーで隠していたが、ジローはスタイルが良く細身で脚も長い。
 恋する乙女の贔屓目なしでも素敵だと思う。

「どこに行くんですか?」
「着いたらわかる」

 助手席に栞里を乗せ、車は一般道から高速道路に抜け、海岸線をひたすら走っていく。

「海、久し振りです……」
「秋口になって観光客も減ったし、ボーッとするにはちょうどいいだろ」
「ジローさんも良く来られるんですか?」
「悩んだ時にな」

 車を駐車場に停車させ、二人は砂浜をゆっくり歩いた。水面が太陽光でキラキラと反射して眩しい。

「あそこに座るか」

 自販機で買った缶コーヒーとホットココアで暖を取りながら、二人は取り止めのない話をした。
 猫と犬ならどっちか好きか。
 目玉焼きには何をかけるか。
 くだらなくてどうでもいい話ばかりをしていた。
 栞里は声を上げて笑い、ジローも笑った。
 多分、栞里にはこういう何気ない時間が必要だった。

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