わたしのしあわせ

わたしのしあわせ 13

それでもね、真面目に誘ってくれる人もいたんだよ。
私は恋愛って怖くなってて、男性と個人的に仲良くなるのって避けてたの。

19歳の秋頃なんだけど、会社の先輩のメカニックの人ですごく仕事が出来る人がいて、工場の現場のリーダーの人だったの。
会社の何人かでカラオケ行こうってなって、その中にその人もいたの。
その人が隣になったんだけど、あんまり歌わずにずっとおしゃべりしてた。どうって事の無い、他愛の無い話。
それから会社でもよく話すようになって、私の中古の軽が壊れたりすると仕事の後に直してくれたり、ワイパーのゴムの交換教えてくれたり、仲良くしてくれてたの。

そんなある日、私のクルマのルームランプが切れちゃって、その人に相談したら社外のLEDにする?って言われてそうする事にしたの。
ネットで部品買って、私がお休みの土曜日の夕方に会社に行ったの。
その人もその日は残業無さそうって事で、終わってから手伝ってくれるって。
その日は昼間露出しに行ってて、上はキャミソールに前開きのパーカーでノーブラ、下はマイクロミニでそのまま行っちゃったの。

工場の仕事が終わって私のクルマを工場に入れて、狭い車内で2人で作業したの。狭いから距離は近いし、ルームランプだから上見ながら動いてたの。
そしたらその人が上向きながら
「美佳ちゃん、パーカーの前、閉めてもらっていいかな。その、俺も男だからさ、つい目が行っちゃうんだよ」
しまった、この下ノーブラだった。
パーカーの前を閉めながら
「あの、見えちゃいました?」
「うん、ごめん」
ノーブラだから、見えたって事は乳首だよね。
「それとさ、スカートも気をつけてね」
下見たら丸見え、スカート直しながら
「ごめんなさい」
「いや、ごめん」
見ないように上ばっかり見てる。
ずっと見ないようにしてくれてたんだ。

純正部品じゃないから時間もかかって、終わった時には2人だけになってたの。
「今日はありがとうございました、すっかり遅くなっちゃいましたね」
「時間は気にしないで、いつももっと遅いから。この後何か予定有る?」
「何も無いですよ」
「良かったらごはん一緒にどうかな」
「いいですよ、ほとんどやってもらっちゃったからおごりますよ」
「いや、俺がおごるよ、着替えて来るからちょっと待ってて」
おごってもらっちゃって良いのかな。

その人が着替えて戻って来たの。
「何か食べたい物有る?」
「何でもいいですよ」
「それじゃパスタでいいかな」
「はい」
「その店、駐車場が少ないから一台で行きたいんだけど、俺のクルマで行く?」
「それでいいですよ」
会社の駐車場に私のクルマを置いてその人のクルマに乗ったんだけど、ドア開けてくれたの。
「紳士ですね」
「お姫様扱いだよ」
2ドアのスポーツカーだった。

乗るとひざ掛けを渡してくれたの。
「最近涼しくなって来たから買っておいたんだよ」
見たら折り目の有る新品。
「新品ですか?」
「あ、いや」
どうしたんだろう。

お店は、なんか喫茶店みたいな雰囲気の明るいお店。
ドアを開けてくれたの。
座ろうとすると椅子を引いてくれたの、そんなこと初めてされた。
食事しながらのおしゃべりは楽しかったけど、なんとなく硬い気がする、緊張してると言うか。

お店を出ると
「あのさ、もし良かったらで良いんだけど、少しドライブしない?」
「ドライブですか?」
「うん、もし嫌じゃなければ」
「少しならいいですよ、明日お休みだし」
「ありがとう」

クルマに乗ると、またひざ掛けを渡してくれたの。
「寒くない?」
「大丈夫です、これって使う人がいるんですか?」
「いや、その、美佳ちゃんが乗ってくれたら使ってもらおうと思って」
「私の為ですか?」
「うん、まあ」
意外、私を誘う気だったの?

海水浴場の駐車場に止まったの。
「少し歩かない?」
クルマを降りて、周りを歩きながらおしゃべり。
柵が有って、そこに手をのせて海を眺めたの。隣に同じようにしてたんだけど、私に体を向けたの。少し黙ってから
「美佳ちゃん、あの」
「なんですか?」
「良ければ、その」
「・・・?」
「好きなんだ、俺と付き合って欲しい」
ここまではっきり言われたら、鈍い私でもさすがにわかるよ。
この人、私を良く思ってくれてるんだ、私なんかを好きだって。
でも・・・。
「ごめんなさい」
「ダメ、かな」
「はい、ごめんなさい」
少し黙ってたけど
「わかった、変な事言ってごめんね、クルマまで送るよ」
クルマに乗るとひざ掛け。
「変な事言ってごめんね」
「・・・」
涙が出た。
「ごめん、そんなに嫌だった?」
「違います、私、恋愛は・・」
「俺、嫌われてるのかな」
「違うんです、嫌いなんかじゃありません。私、恋愛は怖くて・・」
「その、美佳ちゃんがその気になるまで、待ってもいいかな?恋愛が怖くなくなるまで」
「ダメですよ、私なんか待ってちゃ。多分私、一生無理です」
「うん、わかった」
私なんか、待ってもらう価値なんてないよ。

この人が良い人なのはわかってるし、嫌いじゃない。
人間とか同僚としては、むしろ好き。
一瞬この人ならって思ったけど、やっぱり怖い。
恋愛はしたくない。
男に触られたくない。

私なんかを好きになってくれたのに、ごめんなさい。
でも、こんないい人に待ってもらう価値なんて、私には無いよ。
こんないい人に、私みたいな汚れた女なんて・・・

この人はその次の年、転職して居なくなったの。
最後の日に携帯の番号を書いた紙を渡されたけど、それっきり連絡もしなかったの。
それでいいの。

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