大好きだよ、堕天使くん
1,出会いと決断

急すぎる出会い



絵の具を水に溶かしたような晴れやかな青色に、濁りひとつない雲がいくつも浮かんでいる。
空とは正反対に汚れたコンクリートの上を、タイヤは回り、私の身を運んでいた。


始業式を終えた私は、昼ご飯を得るためにコンビニに寄ってから帰宅した。
好物の卵の蒸しパンと唐揚げを買うつもりだったけれど、シャープペンシルの芯が無くなっていたことに気づき、少し高いけれどそれも調達した。


「ただいまー」


可愛げのない自分の声が、冷たい廊下に轟く。
唯一の光源が太陽であるため、部屋の中は少し暗い。


(お茶がない…)


水道水というなんとも淡白な飲み物片手に、1人お昼ご飯。
量が量なだけに、10分もあれば完食。


高校生になったけれど、アルバイトはしていないし、始業式から勉強を始める優等生でもない。
つまり、今日の予定はないということだ。
必要なものはないけれど、家にいるのもつまらないので、財布と携帯を持って制服のまま出かけた。





まさかこの外出が、かの有名な一目惚れを生み出すことになるとは




(…え)




車も人も適度に行き交うような道路。
そこを走っていた車が端に寄り、停車した。
その車から降りてきた人物は、まさに常軌を逸していた。


襟足は青に染まり、その耳にはリングのピアスが。
真っ黒のスーツを身につけたその人は、冷たい感触の仮面をつけていた。


明らかに浮いているのに、誰も彼を気にしない。
そんな現状に、知りもしない彼の存在を疑ってしまうほど。


「あ、待って…」


疑った次には声をかけてしまう自分に感心する。
自分でも意識してないのだ。


「?」


嫌悪な表情でも、驚きの表情でもない。
ただただ疑問を浮かべた彼は、その画面の向こうから私を捉えた。


「…」
「…?」


こんなに綺麗な瞳があっただろうか。
何も言えずに手を伸ばす物の怪と化した私は、その場の空気を何とか保つため適当に声を出そうとした。



「好きです」



でも、こんなことを言うつもりはなかった。



「あ、いや…へ?あ、その…」



なんで相手より私が困っているのだろうか。
背けた顔に変な汗が浮かぶ。


「…誰?」


透き通るような柔らかい声。
プリンのように滑らかで、ホイップのように軽い。


「そ。そうですよね…私も誰って感じなんですけど…」


コンクリートに浮かぶ影が近づいてくる。


「…うん。やっぱり知らない顔」


無理やりのぞき込まれた綺麗な顔に、私は息を止めた。
私の汚い体に入った空気で、彼を汚してはいけないと思ったからだ。
けれど、出てしまうものは出てしまう。


「…好き」


言葉なんかがいい例だ。


「俺?」
「はい」


心の中とは大違いに、私は落ち着いた声ではっきり答えていた。


「何で」
「一目惚れです」
「今?」
「そう」


彼の視界に自分がいる。
私を会話の対象として認識している。
それだけでこんなに胸がドキドキするなんて。


「へぇ」


彼は一言、それだけ言って、待たせていたツレの元へ行ってしまった。


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