ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
30分後、小会議室

若葉は、緊張していた。
お願いします、はい分かりました。で終わる人ではない。

課長は、若葉が新入社員の頃からお世話になっている人で、
仕事で何かあるたびに、相談、頼りにしてきた人だ。
若葉の仕事に対する思い、情熱を間近で見てきている。
すんなり退職願い受け取ってもらえるとは到底思えない。

コンコンコン
ガチャリ

「すまん、遅れて。」

と、課長が小会議室に入って来た。

「いえ、お時間取っていただき、ありとうございます。」

「で、どうした?」

「あの、実は・・・。」

と言って、若葉は退職願を課長に差し出した。

課長は明らかに驚いた表情で目を丸くしていた。
課長は、退職願は受け取らずに、

「一旦、座ろうか。」

と言い、若葉を座らせると、自分も机をはさみ若葉と向かい合わせになるように
座った。

「とりあえず、理由を聞かせてくれるかな。受け取るかどうかはそれからだ。」

予想通りの反応だ。
でも、若葉としても受け取ってもらわないと困る。
課長には嘘は通じない・・・。若葉は正直に話すことにした。

「なるほど。河合が、会社を辞めてその人と結婚しないと、ご実家の旅館が
潰れてしまうということか・・・。」

「・・・はい。」

「今朝、神妙な顔で話があるっていうから、きっとご実家で何かあったんだろうとは
思ってはいたが、まさか、今時こんな話が。いや、田舎ではこういう話はいまだに多いかもな。
かといって、助けてやることも出来ないしな。参ったな。」

と、課長は腕を組み、天井を仰いだ。

「分かった。一旦、この退職願は預からせてくれ。でもまあ、坂本には伝えておいて、
引継ぎは始めておいてくれ。とりあえず、雑音無しできれいにやめさせてやりたいから、
公にするのはそうだな、退職する2週間前でいいだろう。こっちは次の人材の確保もあるから
上には報告しておく。」

「はい。ありがとうございます。」

「すまん、力になれなくて。」

「そんなことないです。課長には本当に感謝しています。」

「最後まで気を抜くなよ。立つ鳥跡を濁さずだ。」

「はい。最後まで頑張ります。」
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