ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
若葉のアパートの前に着き、車は緩やかに止まった。
若葉はシートベルトを外し、

「今日はありがとうございました。とても楽しかったです。」

と、東堂にお礼を言うと、東堂も、

「いや、こちらこそ楽しかったよ。ありがとう。」

と言った。

「では。」

と言って、若葉がドアを開けようとすると、
東堂が、

「若葉さん。」

と声をかけた。

若葉が、

「はい?」

と、言いながら振り向くと、東堂が若葉の腕を抑え、
2人の唇が重なった。
一瞬時が止まったかのような時間が流れ、二人が奏でる甘い音がだけが車中に響いた。

ゆっくりと唇が離れると、

「仕事では会えそうにないからね。また連絡する。」

と、東堂が優しく言った。

「はい、待ってます。」

と、若葉は返事をしてから、車を降りた。

若葉は東堂の車が見えなくなるまで見送ると、
バッグから携帯を取り出した。
今日は、デートを邪魔されたくないと思い、朝から音を切っていた。
携帯を見ると、着信履歴が10件ほど入っていた。
10件とも全部姉の和葉(かずは)からだった。

留守電を聞くと、姉が早口でメッセージを入れていた。

「若葉、今日、父さんと母さんが若葉に会うためにそっちに行ったから。
会わなくていいから。もし会ってしまって変なこと言われても無視してちょうだい。
若葉は気にしなくていいから!」


留守電を聞き終わり、若葉が携帯をバッグに直し、アパートに向かって歩き出した途端、

「若葉!」

と、呼ばれた。
声がした方を見ると、父と母が立っていた。


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