探偵少女
 雪兎はレシートを渡そうとするが、晴真は首を振って断る。


「……わかりました。依頼はしませんが、ボディガードはお願いします」


 雪兎が表情を柔らかくしたと思えば、晴真から視線を逸らした。


 その視線の先には、制服から着替えた蒼空がいる。


 蒼空は晴真の前に立ち、晴真を見上げる。


「町田蒼空です。えっと、アサギハルヤくん」
「……朝原晴真です」


 他人の名前を間違えておきながら、蒼空は悪びれもせずに笑っている。


 それだけでなく、簡単に負けてしまいそうなほどに小柄で、不安になって雪兎を見るが、雪兎は微笑んでいるだけで、なにも言ってこない。


 晴真はもう、文句を言うことを諦めた。


 そして晴真と蒼空は店を出ていった。


「蒼空くん、相当浮かれてたけど……大丈夫なのかな?」


 それぞれがもとの位置に戻ると、夢里が尋ねる。


「一番、三崎に嫌われたくない人だから、心配ないんじゃないですか」


 友奈と夢里がそんな会話を繰り広げているというのに、知由は自分には関係ないという顔をして、雪兎にコーヒーのおかわりを頼んでいる。


 そんな平和な時間が過ぎていたから、誰一人、ネット上に噂が流れ、知由が炎上しているなど、思いもしなかった。



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